最近一部で話題のトンチン保険は、保険料を一括で払い、満期に生存している人だけで元本と運用益を山分けする商品だ。扱っている国はフランスやオランダなど一部に限られている。
しかし、諦めるのはまだ早い。取材を進めると、実は日本にも「トンチン」商品が存在することが判明した。
「日本経済新聞は<日本では売られていない>と書いていましたが、あれは誤り。日本では唯一当社が『トンチン保険』を扱っています」
というのは、外資系保険会社「メットライフアリコ」の広報担当者。
1993年に「高齢者生存保障保険」の名で取り扱いを開始。2005年から「積立利率変動型生存保障保険」として、円建てとドル建ての両方を扱うようになり、現在の「円建IS生存保険」に至る。
この保険は65歳まで加入が可能で、仮に65歳で加入した場合には、満期を80歳に設定することも可能。満期時には死亡実績や解約実績、運用実績などとともに、満期支払額が通知されるが、満期年齢まで長生きした場合には、積立金以上の払い戻し金が保障されている。
また、フランスのトンチン保険は、死亡時や解約時には、積立金は原則戻ってこないが、この保険の場合は戻ってくる金額は「ゼロ」にはならないのでリスクをある程度は抑えられる。
ファイナンシャル・プランナーの豊田眞弓氏の話。
「もちろん、いいことずくめとはいきません。リスクが少ない分、生存時の配分もフランスのトンチン保険ほどではなくなります」
ちなみに、死亡時に家族にお金を残すという性格の保険ではないため、加入時には必ずしも健康体である必要はないそうだ。
では、商品としての実用性はどうなのか。前出・豊田氏はこう話す。
「すでに必要な保険に加入している人なら、年金がわりにプラスアルファとして入る分にはいいと思います。適しているのは、家系的に長生きで自分も健康に自信があるという人。生命保険の予定利率を来年4月に下げる会社も多いなか、貯蓄型保険のひとつとして再注目される可能性がある。長生きしなきゃというモチベーションにもなると思います」
また、大手生保元役員の永富邦雄氏は、少子高齢社会の日本では、国家としてトンチンを取り入れるべきだと提言する。
「すでに70年代に興銀頭取だった人物が提唱したことですが、国が借金まみれの状態なのですから、トンチン国債を発行すればいい。運悪く早死にした人のお金を『生きる人』の生活のための財源とすることもできるはずです」
※週刊ポスト2012年12月7日号