国民の期待を集めたわりには「議席数54」の結果に終わった橋下徹・大阪市長が率いる日本維新の会。維新はなぜ大失速したのか。大阪都構想のブレーンを務めた古賀茂明(元経産官僚)、高橋洋一(元内閣参事官)、長谷川幸洋(ジャーナリスト)の3氏が、その真相を語り合った――。
――石原慎太郎氏や旧たちあがれ日本(以下「たち日」)との合流が維新の政策的変質を招いたのか。
古賀:橋下さんは、合流で批判されることは百も承知だったと思います。それでも得のほうが大きいという計算があった。たち日や石原さんと一緒になって、維新の支持率が急速に落ちたという見方が多いですけど、僕はその前に落ちてきていたと判断している。それまでに維新に合流してきた国会議員団の顔を見て、有権者はみんな「えーっ」て思ったわけですよ。石原さんと組まなかったら何が起きたかというと、目玉候補は東国原英夫氏と中田宏氏だけです。おそらく支持率は下がり続けたでしょう。
石原さんと組むのは劇薬だから、離れる人たちも出てくるんですけど、それは基本的にインテリ層ですよ。橋下さんは、インテリ層が離れても、残りの無党派層を引っ張ればいいと考えた。そのほうが「ふわっとした民意」で獲れる票が大きいという計算をしたんじゃないかな。
長谷川:橋下さんもほんとは石原さんと旧たち日を切り離したかったが、石原さんがたち日の人たちに気を遣わなきゃいけないから結局、できなかった。
高橋:橋下さんや維新側はたち日を甘く見ていたんじゃないかな。私は彼らをよく知っているけど、片山(虎之助)さんも園田(博之)さんも、自民党の幹部までやった大変なキャリアの人たちですよ。彼らにすれば、維新の松井(一郎)さんや浅田(均)さんは赤子のようなもの。政治的な駆け引きでは絶対に敵いません。
古賀:それが現われているのが、たち日の人たちが主導して作ったといわれる「骨太 2013――2016」という維新の公約です。内容が非常にずるい。公約本文と公約でない政策実例に分かれていて、本文を見ると、「農業の成長産業化」などとあるだけで、抽象的で厳しいことは何も書いていない。
一方、政策実例にはいろんな改革の具体案が書いてあり、橋下さんはそれを訴えているけど、たち日の人たちは、農協の人などに、「橋下がいっているのは公約じゃなくただの例だ」と逃げられるんです。
原発についても、政策実例には「既設の原子炉による原子力発電は2030年代までにフェードアウトすることになる」という表現があるが、わざわざ「既設の原子炉」と断わっているのは、同じ場所に新たな原子炉をつくる「リプレース」は否定しないということ。
これは読む人を原発ゼロへの前進だと錯覚させておいて、実は正反対の原発維持を狙う「霞が関文学」のロジックそのものです。明らかにたち日側が入れさせた文章でしょう。片山さんや園田さんはこういう仕事のプロで、裏に経済産業省の官僚がいるはずです。
【鼎談参加者】
●こが・しげあき:大阪府市統合本部特別顧問。1955年生まれ。通産省(現経済産業省)入省後、経済産業政策課長や国家公務員制度改革推進本部事務局審議官などを歴任。2011年9月、経産省を退官。著書に『日本中枢の崩壊』(講談社)など。
●たかはし・よういち:大阪市特別顧問。嘉悦大学教授、(株)政策工房会長。1955年生まれ。元財務官僚として、総務大臣補佐官、内閣参事官(総理補佐官補)などを歴任。著書に『「借金1000兆円」に騙されるな!』(小学館101新書)など。
●はせがわ・ゆきひろ:東京新聞・中日新聞論説副主幹。1953年生まれ。政府税制調査会委員などを歴任し、現在は大阪市人事監査委員会委員長も務める。著書に『日本国の正体 政治家・官僚・メディア―本当の権力者は誰か』(講談社)など。
※週刊ポスト2013年1月1・11日号