2013年の世界経済を見るうえで最も重要なポイントとなるのは、やはりユーロだ。経営コンサルタントの大前研一氏が今後のユーロの行方について解説する。
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いまユーロ圏では「2つのシミュレーション」が進んでいる。1つは、ギリシャをユーロから離脱させる方法はあるのか、離脱させたら何が起きるのか、ということだ。
ギリシャを離脱させると、ギリシャ政府は旧通貨ドラクマを再び発行しなければならなくなる。しかし、ギリシャ人も含めてドラクマを信用する人は少ないから、ドラクマには需要がない。
ギリシャ人もユーロにしがみつき、ドラクマをユーロに替えようとするだろう。したがって、仮にドラクマの発行初日は1ドラクマ=1ユーロだったとしても、すぐに3ドラクマ=1ユーロ、5ドラクマ=1ユーロとドラクマ安が急進し、ギリシャはハイパーインフレになってしまう。
結果はどうなるか。ギリシャ政府の国民に対する債務はハイパーインフレで一部が帳消しになるかもしれないが、ユーロ建ての対外債務はそのまま残って返済が苦しくなる。ギリシャ国民の生活は成り立たなくなり、どのみちギリシャは国家破綻に追い込まれ、デフォルト(債務不履行)を宣言するしかなくなるだろう。
といっても、その影響はもはや予想の範囲内だ。ドイツなどがギリシャ向け債権を踏み倒されるだけの話であり、ギリシャが追加の救済資金をねだることもなくなる。ギリシャは切り捨てられれば地獄を味わうことになるが、それを見ればポルトガルなど他の財政危機国が、もう少し努力するようになるだろう。
もう1つのシミュレーションは、フィンランドの「ユーロ離脱プラン」だ。ギリシャとは正反対に、トリプルA格付けを持つ“優等生”フィンランドでは、ユーロと一緒に沈むのはご免だという意見が強まり、EU加盟国でも通貨がユーロではないスウェーデンやイギリスの財政の自由度を羨む状況になっている。
そこでフィンランドは、ユーロ離脱の方法として「ダブル通貨」の研究を始めた。これはユーロも利用したまま、旧通貨のマルッカも発行するという方法だ。たとえば、最初はマルッカ10%、ユーロ90%の割合で発行する。
両者の信用が同じであれば為替レートは1対1になる。だが、ユーロ圏には財政危機国家が多いから、少しずつマルッカのほうが強くなってくる。それに伴いマルッカの割合を20%、30%と年々増やしていけば、ユーロが崩壊しそうな時には100%マルッカにしてスムーズにユーロ離脱ができるのではないか、と“図上演習”を行なっているのだ。
ただし知っておかなければならないのは、仮にユーロから離脱して独自に金融政策、為替政策をとろうとしても、やれることは限られているということだ。今や世界はボーダレスな「連結経済」、言い換えれば「相互依存経済」になった。
現在の市場メカニズムでは、為替レートは瞬時かつ自然に調整され、マネーは国を越えて飛び交うため、個々の国家が通貨の供給量を増やしたりしても、その効果は薄くなってしまう。大量供給したマネーが海外に流出し、国内にはとどまらなかったアメリカの「ドルキャリー」の例はその典型だ。
※SAPIO2013年1月号