2013年、世界経済で何が起こるのか。一歩先を見据えたリサーチ力と鋭い洞察力で、国内外の投資家から高く評価されている元ドイツ証券副会長・武者陵司氏が解説する。
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2013年は米国経済が牽引役となり、グローバル経済を拡大させていく構図への転換が起こると見る。「パックス・アメリカーナ」(米国覇権)の再来だ。
実際、米国経済は回復モメンタムを高めている。米大統領選の前に発表された10月の雇用統計は、非農業部門雇用者数が事前予想を大きく上回り、しかも8月と9月の数字も共に大幅に上方修正されるという良好な数字となった。
これまで米国経済は、史上最高水準の企業利益が1年半以上も続く一方で、雇用の回復が進んでいないことが、回復が力強さを欠く根拠として考えられてきた。それが、雇用回復が鮮明となったことで、いよいよ本格回復が秒読み段階に入ってきたといえよう。
そう考えられる理由は2つ。ひとつは米国の住宅市場が底打ちから、回復基調に転じていること。新築および中古の住宅販売件数は、プラス基調を維持しており、過剰在庫は着実に減少してきた。
また、米格付け会社S&Pが発表するケース・シラー住宅価格指数は、こちらも前年比でプラスが続き、主要20都市の住宅価格はすべて上昇している。その結果、2012年の住宅投資は、国内総生産(GDP)成長率への寄与度が、2005年以来7年ぶりのプラスとなる見通しだ。
不動産価格の上昇と急回復してきた米国株は、資産効果を個人にまで波及させる。2013年は、資産効果が個人消費の押し上げ要因になると予想され、住宅バブル崩壊で痛手を受けていた家計部門が転換点を迎えるだろう。
2つめの理由は米国のQE3(量的金融緩和第3弾)である。先の9月に、米FRB(連邦準備制度理事会)が発表したその内容は、MBS(住宅ローン担保証券)を毎月400億ドル規模で買い入れるというもの。しかも、買い入れ期間の期限を明示しないオープンエンド方式としている。私はこの米QE3は極めて強力な金融緩和だと考えている。
住宅市場も好転し、物価の下げ止まりも鮮明となり、米国経済がデフレ化する可能性がほぼなくなった段階で、無制限のMBS購入に踏み切ったのだ。となれば、QE3の政策目標は自ずと見えてくる。改善が遅れている雇用状況を好転させ、景気拡大を目指した攻撃的な金融緩和なのである。
このFRBのスタンスが金融市場に与える安心感は非常に大きい。QE3によって、過去最高水準の米企業収益はさらに拡大し、NYダウは2013年中に高値を更新する可能性が高いだろう。その効果はグローバル経済へも波及し、世界中の市場で株価高騰が見られるのではないか。
※マネーポスト2013年新春号