総選挙で圧勝し2度目の政権を担うこととなった安倍晋三氏。5年前には潰瘍性大腸炎という難病ために総理の職を辞すると表明している。
安倍氏は年末の特別国会で所信表明演説、来年1月の通常国会では施政方針演説を行なう。そこで語らなければならないのは、5年前の「退陣の真相」である。
健康問題が原因ではない。安倍政権当時の閣僚がこう振り返る。
「政権崩壊のきっかけは公務員改革に抵抗する霞が関の造反だった。役所側は天下り規制案を事務次官会議でつぶそうとしたが、安倍首相は『事務次官会議に法的根拠はない』と強硬に閣議決定した。
その途端に閣僚のスキャンダルが次々に噴き出し、閣議では大臣たちが起立して総理を迎えない学級崩壊状態だといった情報が次々にリークされた。役人のサボタージュで官邸に情報が上がらず、安倍さんは孤立して精神的に追い詰められ、参院選敗北で政権は決定的に行き詰まってしまった」
そうした政策の行き詰まりと政権運営の心労と激務で病状が悪化し、腹痛を口実に全てを投げ出して逃げたのが真相ではないのか。
今回も安倍氏は「金融大幅緩和」や「デフレ脱却がなければ消費税は上げない」というアベノミクス政策を掲げて景気回復を期待する国民の票を集めたものの、同時に霞が関や日銀を敵に回している。
自民党幹部は、「自民党のここまでの大勝は安倍政権にとって好ましい結果とはいえない」と、こう語る。
「総選挙では安倍総裁と、経済政策で対立する石破幹事長が互いにどちらが多く子分を当選させるかを競い、その結果、落選中の族議員や役所のひもつきの議員など石破氏支持派が大量に復活した。霞が関のバックアップを受ける石破さんの力が強まったわけで、安倍さんが政策を押し通そうとすれば、党内と霞が関から強い抵抗を受けるだろう」
早くも5年前の状況が再現されつつあるという指摘である。安倍氏がそれを突破するには、過去の失敗を緻密に分析し、霞が関と戦って政治主導を実現する覚悟と周到な準備が欠かせないはずだ。
しかし、首相復帰にあたって「投げ出した政策は必ずやる」と国民に誓うこともなく、「特効薬」と「カツカレー」で健康が回復したといえば国民が許してくれるという認識しかない安倍氏に、そうした備えがあるのだろうか。
※週刊ポスト2013年1月1・11日号