「無制限の金融緩和」「10年間で200兆円の財政出動」といった景気・金融政策を掲げる「アベノミクス」への期待感から、総選挙前に日経平均は1か月で100円以上も上昇した。安倍自民党の政権奪還で期待はさらに高まるが、大前研一氏は「そんな政策で日本経済は再生できない」と喝破する。
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今回の総選挙で争点になった「消費税増税」「インフレターゲット」「TPP(環太平洋パートナーシップ)協定」などは、いずれも経済成長とは関係がなく、重要ではない。というより、重要でないから争点になったのだ。重要なことを争点にする政治家を、私はついぞ見たことがない。
最大の問題は、政権に返り咲いた自民党の安倍晋三総裁(およびそのアドバイザーたち)が、日本経済の現状を理解していないことである。安倍総裁は大胆な金融緩和やインフレターゲットなどによってデフレ脱却を目指す財政金融政策「アベノミクス」を掲げているが、それは金利の上げ下げとマネーサプライの増減が経済活動に影響を与えるとする20世紀のマクロ経済学が、まだ通用すると思っているということだ。
しかし、その認識は間違っている。すでに日本は1999年からゼロ金利政策が(短期間解除されたことはあったが)続いており、市場にはお金があふれている。だが、誰も借りないし、誰も使わない。これからさらなる金融緩和を行なって無制限に資金を供給したとしても、個人にも企業にもニーズがないから、実体経済には吸収されないのである。
大胆な金融緩和をしようがしまいが、消費税を10%にしようがしまいが、TPP協定に参加しようがしまいが、このままでは日本は2030年を迎えられないと私は見ている。
なぜなら、それまでに日本は国の借金が対GDP比で300%を超えて、「破断界(持ちこたえられる限界)」を迎え、国債がデフォルトしてハイパーインフレになってしまうからだ。
国債がデフォルトしたら、国債を大量に保有する銀行が潰れ、個人金融資産が吹き飛んでしまう。ハイパーインフレになったらタンス預金も一気に紙屑になる。そうなる前に貯蓄を消費に向かわせて経済を上向かせることを考えるべきである。
※週刊ポスト2013年1月1・11日号