時には100円が2億円になる可能性も0ではない。“一攫千金”を夢みて日々馬券購入に勤しむ競馬ファンは多いだろう。しかし、数々の負けレースを踏み台にやっとの想いで大儲けしたとしても、その先に待っているのが多額の追徴課税だとしたら……。
大阪市在住の会社員A氏(39)は妻と幼い子供と3人暮らし。スラリとした体型で黒いスーツに細い黒縁メガネをかけた姿は、いかにも真面目そうなサラリーマンといった印象である。しかし、12月10日、彼が立っていたのは大阪地裁の法廷だった。
A氏は2004年頃から100万円を元手にインターネットで馬券を大量に購入するようになった。その戦績は驚異的で、今回の公判で立件の対象になっている2007~2009年には、約1億4000万円もの利益を叩き出したという。
しかしその後、A氏を「悲劇」が襲う。A氏は3年間で合計28億7000万円の馬券を購入し、約30億円の払い戻しを受けていたが、大阪国税局は「払戻額から当たり馬券の購入額を差し引いた約29億円は一時所得にあたる」として、所得税額5億7000万円、無申告加算税を含めた約6億9000万円をA氏に課税。
A氏が不服を申し立てると、国税局は大阪地検に告発。A氏は所得税法違反の罪で起訴されてしまったのだ。 担当弁護士の中村和洋氏がいう。
「競馬で勝って手元に残ったお金は1億4000万円なのに、滞納金も含めてこんな大金を払えというのはあまりにも理不尽だし、非常識でしょう。Aさんはすでに一括で6000万円を納税し、その後は手取り30万円弱の給料から毎月8万円ずつ納税しています。Aさんの元にありもしない額をこんな風に課税されたらたまりませんよ」
そもそもA氏はどうやって競馬で巨額の金を儲けたのか。
「Aさんは市販の競馬予想ソフトに、過去の成績やタイム、騎手などのデータを換算して点数をつけたものを加えていき独自のシステムを作ったのです。馬券は、レース毎に単勝、複勝、馬連、馬単、三連単などをオッズによって組み合わせ、数十通り買います。1番人気の馬ではなく、人気薄でも10回に2、3回は勝つという馬を買うことでトータルの回収率が100%を超えるようにしていたようです」(中村弁護士)
A氏はデータのない新馬戦や障害レースを除き、中央競馬のほぼ全レースを購入していたという。
「あくまでも50万円を55万円に、55万円を60万円にと少しずつ増やしていった結果、当たり馬券全部の累計が30億円になったのであって、一度に何億もの払い戻しがあったわけではないのです」(中村弁護士)
※週刊ポスト2013年1月1・11日号