日本プロ野球黎明期に、グラウンドを彩った選手たちが、もし現代のプロ野球に甦ったら――? そんな夢のようなテーマを元に、往年の名選手に話を聞いた。それぞれの口から語られたのは、単なる妄言ではない。昔と今の違いとして、「環境の良化」を挙げるのは、華麗な遊撃の守備で巨人のV9を支えた広岡達朗氏(80)。広岡氏はこう語る。
「人工芝でエラーするヤツの気がしれんね。我々が苦労したのは、整備されてない土のグラウンド。ランナーの足跡は残るし、石ころだって落ちている。それを見つけてならすのも仕事だった。そこが自分の仕事場になるんだから」
人工芝は球速が速くなるというが、土のグラウンドでボテボテになるゴロの方が処理は難しい。
「今の野球では、上手に捕って投げる選手はいるが、よく突っ込んだと感動するようなプレーは見られない。選手が悪いというよりは、人工芝のグラウンドが選手の技術を低下させたんです」
入団時の一塁手は、“打撃の神様”こと川上哲治氏。
「川上さんには“送球はこの範囲(胸周辺)しか捕らないからな”といわれていたし、実際に試合でも捕ってくれなかった(笑い)。土のグラウンドではイレギュラーになって、慌てて捕れば暴投になる。
だから球が来る前に捕球姿勢を整え、丁寧に処理することを覚えた。ボクも人工芝でスタートしていれば、あんなに丁寧にゴロを捕ってなかっただろうね。ボクも含め、王、長嶋が守れば、今の野球ならエラーはゼロだよ」
※週刊ポスト2013年1月1・11日号