レジャー産業の苦境が伝えられて久しい。なかでも、動物園への入場者数は減少するばかりだ。苦しいなか、全国でもっとも入場者数が多い上野動物園は、2011年にパンダのリーリーとシンシンがやってきたことで19年ぶりに年間400万人を超えた。それでも、最盛期の1974年には700万人を超える人が訪れていたことを思うと、遠く及ばない。
泳ぐペンギンや水へ飛び込むシロクマ、食事する姿など、生き生きとした動物の生活をそのまま見学できる”行動展示”で人気を呼んでいる北海道の旭山動物園ですら、5年連続で入場者数を減らしている。
人気動物園でも入場者集めに苦労するなか、驚くべき集客をしている場所がある。群馬県太田市にある「ジャパンスネークセンター」だ。
1967年に設立された財団法人日本蛇族学術研究所が運営するジャパンスネークセンターは、日本で唯一のヘビを専門に展示する動物園だ。巳年の2013年を迎える前になって、前年、前々年の同月と比較すると来園者が4倍から5倍に激増している。
毒ヘビの研究でも知られる同センターでは、日本のマムシからアマゾンのボアまで世界で3000種類にのぼる多種多様なヘビ類の展示をし、実際に触ったり、ハブからの”採毒実験”も見られる。いま人気を博しているのは日付限定で行っているヘビとの記念撮影だ。
研究員の森口一さんによれば、記念撮影は前回の巳年よりも前から行っていたが、12年前と比べても今回は多くの人が訪れているという。
「12年前は、来場者数は前年の1割から2割程度の増加でした。今回は全然違います。昨年や一昨年の同じ時期に比べて、300~400%の増加です。
ヘビとの写真を年賀状に使いたいからと言う人が多いです。これも12年前にはあまり見られませんでした。当時は、今ほど一般にはデジカメやスマホが普及していなかったことも影響しているのではないでしょうか」
撮影に応じているのは、ボアコンストリクター(ニシキヘビ)とテキサスネズミヘビのアルビノ(発光体。白く見える)の二匹。撮影に向いたおとなしい個体が選ばれている。記念撮影を希望する人からは、縁起物として神社でもまつられる白ヘビよりも、写真に映える約2.5メートルと大きなニシキヘビのほうが人気を集めているそうだ。
干支が一回りするあいだにデジタル機器が一般に普及したように、ヘビやは虫類をめぐる社会の状況もずいぶんと変わったと森口さんはいう。
「10年ほど前までは、たいしてヘビやは虫類の知識がないのに、もうかるから輸入し、お金が余っているからとよく考えもせずに売ったり買ったりする風潮があったが、景気が減速した今では知識や誠実さがないショップや飼い主は減っている。ヘビやは虫類にとって、景気が悪い今のほうがよい状況です。
ジャパンスネークセンターにとっては、12年前は巳年を迎えた1月のほうが11月、12月よりも来場者は増えていました。干支の動物を見に行くのは縁起がよいからという感覚が日本人に残っていたのだと思います。今回も、縁起がよいからとヘビを見に行く気持ちになるといいですね」
ヘビと記念撮影できる時間と日にちは決まっているので、いつ、どのヘビと撮影できるのかは、ホームページで確認してから来場してほしいとのこと。
若い女性の間でブームとなったパワースポットが幅広い年齢層に広まるなど、理屈で説明できない、技術では解消できないものを信頼する気持ちも日本人のなかに確実に存在している。費用対効果では単純にはかれない、気持ちへ訴えるサービスも来場者が増えている理由かもしれない。