【マンガ紹介】文/横井周子
子供にとってはいちばん身近な大人でもある“お父さん”。漫画の中にはインパクト大な父がたくさん登場します。
アキヤマ香『僕のおとうさん』(集英社)は、高校生の光太郎を語り手に、妻亡きあと教師をしながら男手ひとつで子育てしてきた父・清志郎との日常を描くコメディーです。光太郎が片想いする花屋のお姉さんは、父の元・教え子。実は彼女は清志郎のことが好きで…というわけで光太郎の恋のライバルは父、なのです。
タイトルが示すとおり、本作の魅力はなんといっても“おとうさん”。思春期の息子にとっては「あーウゼェ、あー重ー」な存在ではありますが、料理上手で毎日のお弁当づくりも一生懸命なほのぼの中年イクメン・清志郎。身長180cm、無精ヒゲにスーツ、それにエプロンというギャップが素敵です!
外見だけではなく、妻を失った経験を持つだけに、誰かの心の痛みに対してさりげなく優しかったり。年を重ねた人ならではの清志郎のカッコよさがたっぷり描かれて、読むとほんわか心が温まります。
『新世紀エヴァンゲリオン』(角川書店)も、父と息子の物語。貞本義行が描く漫画作品は“貞本エヴァ”とも呼ばれていて、映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』とは違うストーリー展開をしています。
14才の少年・碇シンジは、父・ゲンドウに命じられ、エヴァンゲリオンに乗って使徒と闘うことに。母を亡くし父を理解できないシンジは、いつも寂しさを抱えています。
心を隠すようにサングラスをかけ、暗い顔をしたゲンドウは確かによくわからない男…。そばにいるのにいない=不在の存在感があまりに強烈で、セリフは少ないのにゲンドウのことが気になって仕方ありません。
ついに描かれた父子の本音の会話では「生まれたその瞬間から 私は 母親の…ユイの愛情を一身に受けるおまえが妬ましかった」と激白!! そんなゲンドウへの妻の返事が見えるような最新刊。神話的な父子の対立をなぞりつつ、どこか悲しげな父親像がここにあります。
※女性セブン2013年1月10・17日号