国内

踊る、テルマエ、ルンバ、LINEまで ヒットの法則を総ざらい

「非ユビキタス社会の到来がヒットの鍵」と品田英雄氏

 デフレ不況が長引くご時世ではあるが、多くの人々から支持されるヒット商品やコンテンツを見てみると、価格訴求力だけでない数々のトレンドが浮かび上がってくる。トレンドウォッチャーとして知られる『日経エンタテインメント!』編集委員の品田英雄氏が、2012年の流行を総ざらい。来年にも繋がる“ヒットの法則”を挙げてくれた。

 * * *
 消費の数字だけで見れば、今年ヒットしたコンテンツは、映画なら『海猿』『踊る大捜査線』『エヴァンゲリオン』、テレビドラマなら『相棒』などシリーズものが受けました。また、音楽でいえば嵐だったりAKBだったり……。

 これらは、既に評価の定まった作品ばかり。消費不況が身に沁み、懐具合が寂しい中で、「安心・安全」なものを選ぶ消費者心理が働いていると思います。

 ただ、新しいものに対する興味や消費意欲が失われたわけではありません。古代ローマ&日本のお風呂屋さんという型破りな設定で話題を呼んだ映画『テルマエ・ロマエ』は、マンガが原作とはいえ、映画で初めて知った人も多かった。定番に飽きて冒険したいと思っている人たちの心をうまく掴みました。

 新しいもののヒットは、本物や上級志向ではなく、どちらかというとユニークな付加価値にこそオリジナリティーを感じる傾向があります。『テルマエ』もそうですし、商品でいえば『ルンバ』や『COCOROBO(ココロボ)』といったロボット掃除機も挙げられます。もちろん掃除機能も選ばれる理由だとは思いますが、掃除機がしゃべったり、終われば自動で充電器のところまで戻ってきたりと、遊びの要素があったことがヒットにつながったのではないでしょうか。

 最近売れている『簡易加湿器』もそう。ただ紙を湿らせるだけの原始的な商品ですが、東急ハンズに行けば、オシャレな形をした商品のバリエーションが実に豊富。便利さだけではないオリジナリティーが求められている時代なのです。

 情報化社会という側面から見れば、今年はスマホやタブレット端末が一気に普及した年でした。インターネット社会は「ユビキタス」で、「いつでも・どこでも・誰にでも」情報にアクセスできる価値が高いと言われてきました。

 しかし、それらのキーワードが実現したいま、誰にでも出せるようなコンテンツやエンターテインメントにわざわざお金を払う人はいません。そこで、「いまだけ・ここだけ・あなただけ」というパーソナルなサービスを感じられる「非ユビキタス社会」の到来がヒットの鍵を握っていると思います。

 例えば、世界累計8000万人の登録ユーザーがいるLINEは、ツイッターやフェイスブックと違って基本的には知り合いとやり取りし、1対1を結ぶサービス。また、街コン、女子会、ライブやダンスが盛り上がっているのも、人と人とが出会い、接点を持つ直接的なコミュニケーションが求められている証拠です。

 そんなシチュエーションでノンアルコール飲料が売れているのは理解できます。「お酒は飲めないけど会合では盛り上がりたい」という人たちのニーズをマーケティング的に汲み取ったからです。

 周辺情報を含んだコンテクスト(文脈)によって流行が拡がっていく。2013年は「コンテンツそのものよりコンテクスト」の嗅ぎ分けがヒットの条件といえそうです。

【品田英雄/しなだ・ひでお】
1957年生まれ。学習院大学卒業後、ラジオ局(現・ラジオ日本)を経て日経BPに入社。1997年『日経エンタテインメント!』を創刊して編集長に就任。その後、同誌発行人を経て編集委員に。2012年10月より日経BPヒット総合研究所上席研究員を兼任する。

関連キーワード

関連記事

トピックス

お笑いコンビ「ガッポリ建設」の室田稔さん
《ガッポリ建設クズ芸人・小堀敏夫の相方、室田稔がケーブルテレビ局から独立》4月末から「ワハハ本舗」内で自身の会社を起業、前職では20年赤字だった会社を初の黒字に
NEWSポストセブン
”乱闘騒ぎ”に巻き込まれたアイドルグループ「≠ME(ノットイコールミー)」(取材者提供)
《現場に現れた“謎のパーカー集団”》『≠ME』イベントの“暴力沙汰”をファンが目撃「計画的で、手慣れた様子」「抽選箱を地面に叩きつけ…」トラブル一部始終
NEWSポストセブン
母・佳代さんのエッセイ本を絶賛した小室圭さん
小室圭さん “トランプショック”による多忙で「眞子さんとの日本帰国」はどうなる? 最愛の母・佳代さんと会うチャンスが…
NEWSポストセブン
春の雅楽演奏会を鑑賞された愛子さま(2025年4月27日、撮影/JMPA)
《雅楽演奏会をご鑑賞》愛子さま、春の訪れを感じさせる装い 母・雅子さまと同じ「光沢×ピンク」コーデ
NEWSポストセブン
自宅で
中山美穂はなぜ「月9」で大記録を打ち立てることができたのか 最高視聴率25%、オリコン30万枚以上を3回達成した「唯一の女優」
NEWSポストセブン
「オネエキャラ」ならぬ「ユニセックスキャラ」という新境地を切り開いたGENKING.(40)
《「やーよ!」のブレイクから10年》「性転換手術すると出演枠を全部失いますよ」 GENKING.(40)が“身体も戸籍も女性になった現在” と“葛藤した過去”「私、ユニセックスじゃないのに」
NEWSポストセブン
「ガッポリ建設」のトレードマークは工事用ヘルメットにランニング姿
《嘘、借金、遅刻、ギャンブル、事務所解雇》クズ芸人・小堀敏夫を28年間許し続ける相方・室田稔が明かした本心「あんな人でも役に立てた」
NEWSポストセブン
第一子となる長女が誕生した大谷翔平と真美子さん
《真美子さんの献身》大谷翔平が「産休2日」で電撃復帰&“パパ初ホームラン”を決めた理由 「MLBの顔」として示した“自覚”
NEWSポストセブン
不倫報道のあった永野芽郁
《ラジオ生出演で今後は?》永野芽郁が不倫報道を「誤解」と説明も「ピュア」「透明感」とは真逆のスキャンダルに、臨床心理士が指摘する「ベッキーのケース」
NEWSポストセブン
渡邊渚さんの最新インタビュー
元フジテレビアナ・渡邊渚さん最新インタビュー 激動の日々を乗り越えて「少し落ち着いてきました」、連載エッセイも再開予定で「女性ファンが増えたことが嬉しい」
週刊ポスト
主張が食い違う折田楓社長と斎藤元彦知事(時事通信フォト)
【斎藤元彦知事の「公選法違反」疑惑】「merchu」折田楓社長がガサ入れ後もひっそり続けていた“仕事” 広島市の担当者「『仕事できるのかな』と気になっていましたが」
NEWSポストセブン
お笑いコンビ「ダウンタウン」の松本人志(61)と浜田雅功(61)
ダウンタウン・浜田雅功「復活の舞台」で松本人志が「サプライズ登場」する可能性 「30年前の紅白歌合戦が思い出される」との声も
週刊ポスト