デフレ不況が長引くご時世ではあるが、多くの人々から支持されるヒット商品やコンテンツを見てみると、価格訴求力だけでない数々のトレンドが浮かび上がってくる。トレンドウォッチャーとして知られる『日経エンタテインメント!』編集委員の品田英雄氏が、2012年の流行を総ざらい。来年にも繋がる“ヒットの法則”を挙げてくれた。
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消費の数字だけで見れば、今年ヒットしたコンテンツは、映画なら『海猿』『踊る大捜査線』『エヴァンゲリオン』、テレビドラマなら『相棒』などシリーズものが受けました。また、音楽でいえば嵐だったりAKBだったり……。
これらは、既に評価の定まった作品ばかり。消費不況が身に沁み、懐具合が寂しい中で、「安心・安全」なものを選ぶ消費者心理が働いていると思います。
ただ、新しいものに対する興味や消費意欲が失われたわけではありません。古代ローマ&日本のお風呂屋さんという型破りな設定で話題を呼んだ映画『テルマエ・ロマエ』は、マンガが原作とはいえ、映画で初めて知った人も多かった。定番に飽きて冒険したいと思っている人たちの心をうまく掴みました。
新しいもののヒットは、本物や上級志向ではなく、どちらかというとユニークな付加価値にこそオリジナリティーを感じる傾向があります。『テルマエ』もそうですし、商品でいえば『ルンバ』や『COCOROBO(ココロボ)』といったロボット掃除機も挙げられます。もちろん掃除機能も選ばれる理由だとは思いますが、掃除機がしゃべったり、終われば自動で充電器のところまで戻ってきたりと、遊びの要素があったことがヒットにつながったのではないでしょうか。
最近売れている『簡易加湿器』もそう。ただ紙を湿らせるだけの原始的な商品ですが、東急ハンズに行けば、オシャレな形をした商品のバリエーションが実に豊富。便利さだけではないオリジナリティーが求められている時代なのです。
情報化社会という側面から見れば、今年はスマホやタブレット端末が一気に普及した年でした。インターネット社会は「ユビキタス」で、「いつでも・どこでも・誰にでも」情報にアクセスできる価値が高いと言われてきました。
しかし、それらのキーワードが実現したいま、誰にでも出せるようなコンテンツやエンターテインメントにわざわざお金を払う人はいません。そこで、「いまだけ・ここだけ・あなただけ」というパーソナルなサービスを感じられる「非ユビキタス社会」の到来がヒットの鍵を握っていると思います。
例えば、世界累計8000万人の登録ユーザーがいるLINEは、ツイッターやフェイスブックと違って基本的には知り合いとやり取りし、1対1を結ぶサービス。また、街コン、女子会、ライブやダンスが盛り上がっているのも、人と人とが出会い、接点を持つ直接的なコミュニケーションが求められている証拠です。
そんなシチュエーションでノンアルコール飲料が売れているのは理解できます。「お酒は飲めないけど会合では盛り上がりたい」という人たちのニーズをマーケティング的に汲み取ったからです。
周辺情報を含んだコンテクスト(文脈)によって流行が拡がっていく。2013年は「コンテンツそのものよりコンテクスト」の嗅ぎ分けがヒットの条件といえそうです。
【品田英雄/しなだ・ひでお】
1957年生まれ。学習院大学卒業後、ラジオ局(現・ラジオ日本)を経て日経BPに入社。1997年『日経エンタテインメント!』を創刊して編集長に就任。その後、同誌発行人を経て編集委員に。2012年10月より日経BPヒット総合研究所上席研究員を兼任する。