電話番号を変えずにキャリア(通信会社)を乗り換えることのできるMNP(Mobile Number Portability/番号持ち運び制度)による顧客流出が、10月に過去最大の18万9800件に上ったNTTドコモ。
ドコモにもうひとつの衝撃が走ったのは、10月末だった。民間調査会社がまとめた2012年の「日本携帯電話サービス顧客満足度調査」で、3年ぶりに首位をauに奪われたのだ。
この調査は「提供サービス」や「通信品質・エリア」、「各種費用」「電話機」などの要素で構成される。前述のようにサービスや機種開発でライバルを倒そうとしているドコモにとって、この評価は厳しいと言わざるを得ない。
顧客との窓口となるドコモショップは全国に約2400店舗あり、約3万5000人のスタッフが勤務する巨大ネットワークだ。店舗を運営するのは販売代理店で、最大手はティーガイア。契約獲得数などに応じてドコモから手数料を受け取る。ある大手代理店の幹部が語る。
「ドコモショップのスタッフの接客レベルは、銀行の窓口など他の業界と比べても高い。他のキャリアと違う点だ。
代理店も顧客から見ればドコモの一部だし、企業の顔でもある。ドコモが代理店に要求するレベルは非常に高い」
他のキャリアでは、故障や不具合をショップに訴えても「では、この番号に連絡してください」と客自身がその場でヘルプデスクに電話させられるケースがある。その点、ドコモは「ショップに行けばほとんどの問題が解決する」(代理店幹部)という。
ドコモショップを担当する岡誠一・販売部代理店担当部長が語る。
「約6000万契約の中には、高校生から高齢者まであらゆる年代の方がいます。携帯に詳しい人には豊富な商品知識を有していることが重要ですし、あまり詳しくない方には丁寧にお伝えするホスピタリティが必要です。
顧客満足度調査でも『アフターサービス』の部門は1位だった。コストは確かにかかりますが、マンパワーが落ちれば、もうドコモショップではありません」
ショップスタッフには資格制度がある。
概ね代理店に入社して3か月から半年で受ける「プレマイスター」(2日間の研修と筆記)、半年以上で受ける「マイスター」(筆記と実技)、2年前後の「グランマイスター」(同)、そして最上位の「フロントスペシャリスト」(筆記、実技、問題解決)。
4段階の資格は、営業、故障対応、法人と担当別に分かれている。
「資格を取れば給料がアップします。ドコモは代理店にそのための支援金を支払っている。人への投資です」(岩永良太・代理店支援担当課長)
「フロントスペシャリスト」は難関で、有資格者はスタッフの約6%しかいない。知識はもちろんだが、総合的な人間力が要求される。
●取材協力/海部隆太郎(ジャーナリスト)、永井隆(ジャーナリスト)
※SAPIO2013年1月号