多くの社会人が加入しているであろう各種保険。「いつか得する」と思うものの、実態としては、「保険金」とは払いたくない保険会社ともらいたい被保険者のせめぎあいで決まる。
Aさんが自家用車を運転していると、対向車線を走る車が工事現場のカラーコーンをはねた。コーンはポンポンと道路上を飛んできてAさんの車に激突した!
お気に入りの新車のバンパーが破損。Aさんが加入していた車両保険は、「落下物と飛来物との衝突」が保障の範囲内だった。修理代は保険金でまかなえると高をくくっていたAさんは、保険会社の担当者の言葉に唖然とさせられた。
「カラーコーンはAさんの車に当たるまで、地面の上を何度もバウンドしています。一度、地面に落ちたものは純粋な飛来物とはいえないので保険金は出せませんね」
Aさんは「屁理屈だ!」と激怒し、その担当者に詰め寄ったが、暖簾に腕押しで、のらりくらりとかわされるだけ。結局、修理代は自腹で払うことになった――。
あなたは事故や病気になったとき、加入している保険会社から保険金がすんなり支払われると思ってはいないか? 現実はそうはいかない。保険会社がありとあらゆる理由を付けて支払いを拒んだり、支払額を一方的に減額したりするケースが往々にしてある。
こうした払い渋りや本来支払われるべき保険金が出ないといった不払いは、2005年頃から顕在化し社会問題になっている。監督する金融庁のメスが入り、複数の生保、損保が業務停止処分や改善命令を受けるまでの事態となったことは記憶に新しい。
特に生保の不払いは深刻だ。金融庁によれば2001年度から10年間の生保の不払いは全体で約116万件。金額は計1136億円に上るという。法改正などを経て改善されてきているものの、それでも2010年度は年間2000件も発生した。
不払いがなくならないのは、保険会社にとっての保険金の支払いが、いわば「損失」に当たるからだ。その損失を減らすために、担当者は契約書を穴が空くまで見つめ、支払わなくてもいい理由、つまり告知義務違反や詐欺無効条項を探し出す。どの業界でもコスト削減が至上命題となっているいま、保険会社も“企業努力”をしているのだ。
もちろん正当な理由があって、払われないのであれば仕方がないが、なかには加入者が納得できないものも少なくない。保険会社の言いなりになって、泣き寝入りしている加入者もいるのだ。
※週刊ポスト2013年1月1・11日号