兵庫県警本部の留置所内で自殺した角田美代子被告(享年64)。死者6人、行方不明者4人という稀代の凶悪犯罪は、角田被告が“ファミリー”を支配し、共犯者へ、そして被害者へと変えていった──。
女性が複数の人間を支配し、死に追い込んだ事件は過去にも起きている。2002年に発覚した福岡県の「4人組ナース連続保険金殺人事件」がそのひとつ。2010年3月に最高裁で死刑が確定した吉田純子受刑者(53才)が、看護学校時代の友人ら3人の看護師に荒唐無稽とも思える嘘を信じ込ませ、共同生活で自分が支配者となって、最初は詐欺を、やがて保険金殺人を実行させた。
たとえば共犯者の1人、堤美由紀受刑者を自らのマンションに同居させたきっかけは、吉田受刑者のこんな嘘だった。
「元交際相手がヤクザを使ってあなたを拉致し、ソープで働かせた後、東南アジアに売り飛ばそうとしている」
そう言って、堤受刑者を脅えさせて自分のマンションに同居させると、吉田受刑者は堤受刑者にレズ関係を強要したうえ、給与をすべて自分の懐に入れ、さらに堤受刑者の母親の金も騙し取っている。
同様の方法で2人の看護師からも金を騙し取り、そのうえで2人も自らのマンションに住まわせた。
吉田受刑者はさらに大きな金を手にしようと、3人に保険金殺人を命じる。この時も吉田受刑者が使ったのは巧みな嘘による支配だった。例えば──。
「ご主人は、外に愛人ば囲っとうよ。あなたと子供に5000万円の保険をかけとっと。交通事故を装って殺そうとしとるたい」
夫婦間に楔を打ち込むと、心を支配し、言うがままに操っていったのである。
そしてもうひとつが、信者6人が殺された「福島祈祷師殺人事件」。主犯のA元死刑囚(享年65)は2012年9月に死刑が執行されたばかりだ。前出の深笛さんが解説する。
「信者たちは物理的に監禁されていたわけではありません。ある女性信者は、“帰るなら、洋服は神様のものであるから、裸で帰れ”“肉体も神様のものだ。肉体を置いて帰れ”などと言われて帰れなくなりました」
夫の借金苦から新興宗教団体を転々としたEは、地元・福島県須賀川市に戻って自ら祈祷師を名乗り、「手かざし」による治療や相談を始めた。やがて熱心な信者を自宅に住まわせるようになり、「神様」として君臨するようになる。
1日1食しか与えず、水もほとんど飲ませず、トイレに行くことも我慢させる。そのうえで暴行を加え、ついに女性信者を死なせてしまう。それでも信者たちはAの「死んではいない」という作り話にすがり、Aの元にとどまっていたのである。
『狂気という隣人』(新潮社)などの著書もある精神科医の岩波明さんは、角田被告と吉田受刑者、Aの3人の共通点をこう指摘する。
「精神医学的に言うと『サイコパス(精神病質)』というのですが、人間的な感情をほとんど持たないという特徴があります。周囲の人々を良心の呵責を感じることなく騙し、命まで奪っていく。3人とも、ためらいなく、時には楽しみながら犯罪を遂行しているように感じます」
※女性セブン2013年1月10・17日号