2012年のドラマウォッチを続けた作家で五感生活研究所の山下柚実氏。今回は総決算として、今年、強く印象に残った女優たちの名前を挙げた。
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いよいよ年の瀬。振り返れば私自身、テレビドラマについて賞賛・批判を含めてずいぶんたくさんのコラムを書いた1年でした。いや、「書かされてしまった」と言った方が正確かも。
がつんと刺激を受け、つい涙を流し、ワクワク心を躍らされ、ぞくっと心の琴線を震わされて……。テレビドラマがそんなエネルギーを放っていたからこそ、こちらも「コラムを書きたい」という気持ちになったのです。
で、私なりに今年のテレビドラマ界の収穫を振り返ってみると……まず、「演じる力」を大きく開花させた、あのアイドル女優の名が浮かびます。4月にスタートした『Wの悲劇』、7月のスタート『息もできない夏』、そして10月スタート『東京全力少女』。1年に3本もの連ドラの主役を張り続け、熱い注目を浴びた人。
そして皮肉にも、3つのドラマの視聴率は軒並み「1桁台」にとどまった。そのせいでなんと、「低視聴率女王」という不名誉な称号まで付けられてしまったあの人。
逆転珍現象の主人公。そう、武井咲さんです。
たしかに、視聴率はさほど稼げなかったかもしれない。けれど、彼女の「演じる力」は生半可なものではありませんでした。
あどけない少女かと思うと、陰影のある大人の女の横顔へ。ぬぐえない暗さを纏った人物から、はじける明るさに包まれた人物まで。くるくると変転する。言ってみれば、万華鏡的な人物造形力。この人は本当に10代なの? いったいどの顔がこの人の正体なの? 心地よく惑わされてしまいました。
役者にとって、「さまざまなものに変わることができる力」とは、適性=才能以外の何ものでもない。2013年の武井咲の活躍に、文句なく期待が高まります。
さて、武井さんが今年のドラマ界における収穫ナンバーワンだとすれば……特別演技賞は、「3人のアラフォー」にあげたい。
まず、『シングルマザーズ』で主役を演じた沢口靖子。DVを受け、自立を決意する専業主婦の役を、尋常ならざるリアリティで演じました。その鬼気迫る芝居に、息を呑んだ。過去のお人形のようなイメージとの落差に、いい意味で愕然とさせられたのです。
続いて、『はつ恋』の木村佳乃。細い肩を震わせ、髪を乱し、涙がポロポロ頬を伝う。役を「演じる」というよりも「その役を生きている」。初恋の人に心を吸い寄せられる女性に、全身全霊でなりきる「すっぴんぶり」に打たれました。
もう一人は、『純と愛』に出演中の若村麻由美。弁護士・母親の役ですが、キャラクターがあまりにも尖っていて怖い。凛とした意地悪女。ここまで徹底してイヤな奴を演じ切ることは、なかなか難しい。それをやりきってしまう芸力には、爽快感すら漂っています。
沢口靖子、木村佳乃、若村麻由美。この3人のアラフォーに共通している点がある。それは、若い時分、「美人で売れっ子」で、ドラマや舞台で主役級の人気女優だった、という過去でしょう。
あれからさまざまな人生経験を経て中年にさしかかった今。過去のイメージを潔くすぱっと捨て、芝居と正面から格闘している。変わっていくことを恐れない力強さ。逃げない格好よさ。そこから生まれる説得力のある演技。あっぱれです。
女優というものが、年齢を重ねてもなお、「女優」として生きていく際の居場所と意味と、そして希望とを感じさせてくれた3人。そう、武井咲の行く先を照らす、先輩たちの姿です。