ライフ

演じる力はある武井咲が目指すべき3人のアラフォー女優とは

 2012年のドラマウォッチを続けた作家で五感生活研究所の山下柚実氏。今回は総決算として、今年、強く印象に残った女優たちの名前を挙げた。

 * * *
 いよいよ年の瀬。振り返れば私自身、テレビドラマについて賞賛・批判を含めてずいぶんたくさんのコラムを書いた1年でした。いや、「書かされてしまった」と言った方が正確かも。

 がつんと刺激を受け、つい涙を流し、ワクワク心を躍らされ、ぞくっと心の琴線を震わされて……。テレビドラマがそんなエネルギーを放っていたからこそ、こちらも「コラムを書きたい」という気持ちになったのです。

 で、私なりに今年のテレビドラマ界の収穫を振り返ってみると……まず、「演じる力」を大きく開花させた、あのアイドル女優の名が浮かびます。4月にスタートした『Wの悲劇』、7月のスタート『息もできない夏』、そして10月スタート『東京全力少女』。1年に3本もの連ドラの主役を張り続け、熱い注目を浴びた人。

 そして皮肉にも、3つのドラマの視聴率は軒並み「1桁台」にとどまった。そのせいでなんと、「低視聴率女王」という不名誉な称号まで付けられてしまったあの人。

 逆転珍現象の主人公。そう、武井咲さんです。 

 たしかに、視聴率はさほど稼げなかったかもしれない。けれど、彼女の「演じる力」は生半可なものではありませんでした。

 あどけない少女かと思うと、陰影のある大人の女の横顔へ。ぬぐえない暗さを纏った人物から、はじける明るさに包まれた人物まで。くるくると変転する。言ってみれば、万華鏡的な人物造形力。この人は本当に10代なの? いったいどの顔がこの人の正体なの? 心地よく惑わされてしまいました。

  役者にとって、「さまざまなものに変わることができる力」とは、適性=才能以外の何ものでもない。2013年の武井咲の活躍に、文句なく期待が高まります。  

 さて、武井さんが今年のドラマ界における収穫ナンバーワンだとすれば……特別演技賞は、「3人のアラフォー」にあげたい。

 まず、『シングルマザーズ』で主役を演じた沢口靖子。DVを受け、自立を決意する専業主婦の役を、尋常ならざるリアリティで演じました。その鬼気迫る芝居に、息を呑んだ。過去のお人形のようなイメージとの落差に、いい意味で愕然とさせられたのです。

 続いて、『はつ恋』の木村佳乃。細い肩を震わせ、髪を乱し、涙がポロポロ頬を伝う。役を「演じる」というよりも「その役を生きている」。初恋の人に心を吸い寄せられる女性に、全身全霊でなりきる「すっぴんぶり」に打たれました。

 もう一人は、『純と愛』に出演中の若村麻由美。弁護士・母親の役ですが、キャラクターがあまりにも尖っていて怖い。凛とした意地悪女。ここまで徹底してイヤな奴を演じ切ることは、なかなか難しい。それをやりきってしまう芸力には、爽快感すら漂っています。

 沢口靖子、木村佳乃、若村麻由美。この3人のアラフォーに共通している点がある。それは、若い時分、「美人で売れっ子」で、ドラマや舞台で主役級の人気女優だった、という過去でしょう。

 あれからさまざまな人生経験を経て中年にさしかかった今。過去のイメージを潔くすぱっと捨て、芝居と正面から格闘している。変わっていくことを恐れない力強さ。逃げない格好よさ。そこから生まれる説得力のある演技。あっぱれです。

 女優というものが、年齢を重ねてもなお、「女優」として生きていく際の居場所と意味と、そして希望とを感じさせてくれた3人。そう、武井咲の行く先を照らす、先輩たちの姿です。

関連キーワード

関連記事

トピックス

紅白初出場のNumber_i
Number_iが紅白出場「去年は見る側だったので」記者会見で見せた笑顔 “経験者”として現場を盛り上げる
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
大村崑氏
九州場所を連日観戦の93歳・大村崑さん「溜席のSNS注目度」「女性客の多さ」に驚きを告白 盛り上がる館内の“若貴ブーム”の頃との違いを分析
NEWSポストセブン
弔問を終え、三笠宮邸をあとにされる美智子さま(2024年11月)
《上皇さまと約束の地へ》美智子さま、寝たきり危機から奇跡の再起 胸中にあるのは38年前に成し遂げられなかった「韓国訪問」へのお気持ちか
女性セブン
佐々木朗希のメジャー挑戦を球界OBはどう見るか(時事通信フォト)
《これでいいのか?》佐々木朗希のメジャー挑戦「モヤモヤが残る」「いないほうがチームにプラス」「腰掛けの見本」…球界OBたちの手厳しい本音
週刊ポスト
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
結婚を発表した高畑充希 と岡田将生
岡田将生&高畑充希の“猛烈スピード婚”の裏側 松坂桃李&戸田恵梨香を見て結婚願望が強くなった岡田「相手は仕事を理解してくれる同業者がいい」
女性セブン
電撃退団が大きな話題を呼んだ畠山氏。再びSNSで大きな話題に(時事通信社)
《大量の本人グッズをメルカリ出品疑惑》ヤクルト電撃退団の畠山和洋氏に「真相」を直撃「出てますよね、僕じゃないです」なかには中村悠平や内川聖一のサイン入りバットも…
NEWSポストセブン
注目集まる愛子さま着用のブローチ(時事通信フォト)
《愛子さま着用のブローチが完売》ミキモトのジュエリーに宿る「上皇后さまから受け継いだ伝統」
週刊ポスト
連日大盛況の九州場所。土俵周りで花を添える観客にも注目が(写真・JMPA)
九州場所「溜席の着物美人」とともに15日間皆勤の「ワンピース女性」 本人が明かす力士の浴衣地で洋服をつくる理由「同じものは一場所で二度着ることはない」
NEWSポストセブン
イギリス人女性はめげずにキャンペーンを続けている(SNSより)
《100人以上の大学生と寝た》「タダで行為できます」過激投稿のイギリス人女性(25)、今度はフィジーに入国するも強制送還へ 同国・副首相が声明を出す事態に発展
NEWSポストセブン