失速が指摘される中国経済だが、ビジネスシーンではまだ活況が続いている。ひたすらアルコール度数の高い白酒を注ぎあい、潰れるまで乾杯を重ねる中国式接待は今も健在。だが、冬将軍が猛威を振るう今、新手の接待が定着しつつあるという。
上海在住経験が長い日本人男性がいう。
「もちろん、円卓を囲む宴会はいまも不動の地位を占めています。それを早々に終えて二次会に行くのが冬の風物詩になりつつあるんです」
接待する側、される側。中国人ビジネスマンたちが和気藹々と宴席を後にして向かうのは、なんと、日本でいうところの「スーパー銭湯」なのだという。
日本への留学経験がある中国人サラリーマンはこんなふうに解説してくれた。
「日本だったら、飲んだあとはカラオケに行ったり、女性のいる店に行きますよね。こちらでは冬はお風呂なんです。変だと思うかもしれませんが、これが相手と手っ取り早く仲良くなれる方法なんですよ」
一緒に風呂に入って暖まったあと、個室を借り切ってマージャンをするのもお決まりのスタイルだそうだ。
「わざと負けて相手を楽しませるのが腕の見せどころ。日本のゴルフ接待と似ているでしょう?」(前出の中国人サラリーマン)
さらに、もうひとつのメリットもある。中国では、宴会の最中に仕事の話をするのは無粋とされているが、風呂に入ってしまえばビジネス話も解禁になるという。
まずは信頼関係を結んでからビジネスをするのが中国式。初対面の相手とも、裸の付き合いで手っ取り早く仲良くなってしまおう、というのはせっかちな彼らにはもってこいの手段だったのだろう。
気になる入場料は日本円で500円~1000円程度と手ごろ。施設側も接待客に慣れたもので、退出時には黙っていても領収書を出してくれる。
いったい「中国のスーパー銭湯」とはいかなるものか。『中国人の取扱説明書』などの著書があるジャーナリストの中田秀太郎氏が、その“中身”を語ってくれた。
「日本の健康ランドによく似ていますよ。接待組と思われる男性の姿も少なくなく、湯に長時間浸かりながらビジネス談義をしている声が浴室内に響いていました」
隣り合って真っ裸でアカスリを受けながら、翌日の契約について語るオジサンの姿は微笑ましい。だが、中田氏はどうしても気になることがあったという。
「お湯がぬるいし、濁っていて清潔感がないのです。浴槽の隅には、使い古しの紙コップやタバコの吸殻が浮かんでいました」