厚労省が2012年12月6日に発表した最新の調査で、日本人の死因のトップはやはり「がん」だった。しかし、医師に告げられた数か月という余命や、再発や転移といった絶望的な状況を乗り越え生きている人たちもいる。彼らはどのように病と向き合ってきたのだろうか。2000年に57歳で胃がんが発覚した作詩・作曲家の小椋佳氏(68)は、こう語る。
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元来医者が嫌いで、長らく検査も敬遠してきた小椋氏。仕事を通じて国立病院の総長と看護師長に知り合い、「たまたま休みがあったから遊びがてらに」受けた人間ドックで、がんが発見されたのだという。
「再検査が必要だというので病院へ呼ばれて、そのまま入院。朝から病室に専門医が入れ替わり立ち替わり来るからおかしいと思っていたら、入院説明書の病名欄に“胃がん”と書いてあるのが見えてしまった」
主治医や妻は時期を選んで告知するつもりだったが、偶然にも病名を知ってしまった小椋氏。それから1週間後に行なわれた手術は8時間に及び、胃の4分の3を切除した。
「麻酔で眠っていたから手術がつらいということはなかったですね。実は、胃だけでなく、周囲も相当取ったそうです。迷走神経をすべて切って、胆嚢と副腎も切った。転移など、後々不都合がないようにまとめてみんなやっちゃおうということでね。手術直後はしんどかったですね。いろんな管が身体に通っていて、歩くことができない。動けない時期なんて1週間もなかったのに、あの頃はひどく苦痛に感じました」
以後、10年以上にわたり1か月に1度通院して検査を続けているが、再発や転移の徴候はない。「医者嫌いも治った」と笑う小椋氏は、意外にもがんのおかげで「寿命が延びたかもしれない」という。
「僕の母は糖尿病で59歳で死んでいる。僕も40代の頃は血糖値が40mg/デシリットルを超えることもあるひどい糖尿でした。でも胃を手術して食べる量が減ったからか、いまは糖尿のおそれはまったくないといわれています。あのままいけば、母と同じくらいしか生きられなかったかもしれない。がんのおかげで長生きしていると思うと、不思議ですよね」
※週刊ポスト2013年1月1・11日号