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除夜の鐘を聞いて一度死ぬ 東大卒僧侶が教える新年の迎え方

「除夜の鐘を聞いて大事なのは、捨てること」松本紹圭さんは語る

 除夜の鐘と初詣――変わらぬ日本の正月の風景だが、その深い意味をもう少し知れば、よりよい年越しができるはず。そこで今回、浄土真宗本願寺派僧侶、松本紹圭さん(33)にお話を伺いに行った。

 紹圭さんは、東京大学文学部哲学科を卒業後、仏教界の扉を叩き、インドでMBAを取得。インターネット寺院「彼岸寺」や、お寺カフェ、ライブ等を企画し、“お寺から日本を元気に”をモットーに仏教界に新風を吹き込み続ける異色の僧侶だ。そんな若き改革者が語る“仏教的・年末年始の過ごし方”とは?

 * * *
■除夜の鐘を聞いて一度死にましょう
 除夜というのは、面白い漢字を書きますよね。夜を除く。これはつまり、旧年を取り除く夜、という意味です。

 どうしても年末年始になると、新しい年の抱負を考えるなど、心新たにしようと思いがちです。ですが、その前に、一年を総括することが大事。これをしないと、今年こそ英語を勉強するなどと、毎年同じ目標を立ててしまう。良いこともあったでしょうし、後悔するようなこともあったかもしれない。すべてを振り返る。そして重要なのは、「捨てる」ことです。捨てないと、新しいものは入ってこない。良いことも悪いことも含めて、執着しないということです。

 このように、1年の振り返りを意識しながら、除夜の鐘を聞くといいですね。可能であれば、ぜひ、鐘を打ちに近くのお寺に出かけてください。より強烈に、気持ちを切り替えられると思います。

 本当は、大晦日に限らず、毎日、古いものを捨てて新しいものを入れるといいんです。スティーブ・ジョブズは朝、鏡を見て、今日やるべきことを自問自答したといいますが、除夜と元旦を毎日繰り返していたようなものですね。どちらかと言えば、人は成功体験にとらわれがち。過去をしっかり捨てることで、イノベーションが生まれてくる。毎日は無理にせよ、1年に一度は、そういう節目を持ちたいものですね。

 大袈裟に言えば、除夜の鐘を聞いて、一度死ぬんです。ちゃんと死ぬことで、お正月から、新たな自分を生きることができるのです。

■初詣では喜んでお金を捨てましょう
 初詣に行ったら、願いを叶えてもらうためではなく、ぜひ、「喜捨」の気持ちで、お賽銭を入れていただきたい。私がお坊さんだから言うわけでは、もちろんありません(笑い)。

 お賽銭を入れるのは、貴重な“体験”だと思うんですね。いまの社会システムのなかでは、誰しも多かれ少なかれ、貨幣に対する執着を持っています。普段は、お金は等価交換しますよね。対価を得るために支払うのがお金。でも、お賽銭を入れる行為は、そうした娑婆の世界の行動様式に逆行している。こうした体験が持つ意味が大きいのです。

 初詣は、神社でもお寺でも、家族と一緒にお参りに行かれるといいと思います。一年の原点に、自分の足元を確認する。ああなりたい、こうなりたいと願う前に、自分がどういう縁の中で生きているかを自覚し、感謝の気持ちを持つことが大事です。

■おせち・お雑煮は、自分を知る“よすが”です
 正月におせちやお雑煮を食べる風習と仏教には、何の関係もありません。だた、昔から続いているという点では、共通するものがありますね。

 私のお寺では、武家風のお雑煮を食べるんです。なぜだかわからないですけど、そういう伝統が続いている。家庭によっても、味や料理法が違いますよね。この、「よくわからないけど昔からこうなっている」点が、実はとても重要です。

 現代人の大きな悩みの一つに「孤独感」があると思います。一人でいるから孤独、というだけではなく、どこにいるかがわからなくなってしまうような不安も強いのではないでしょうか。様々な文化や生活様式、人間関係からどんどん切り離され、自由を得た代償として、必然性を失っていったのです。

 こうした時代において、“自分ち”のお雑煮があるのは、とても幸せなこと。ささやかかもしれませんが、自分がどこにいるかを知る、よすがになります。その家の味を、受け継いでいってほしいですね。

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