国は年金破綻のツケを企業に回し、企業は若者の雇用を抑制することでそのツケを払う。これではますます若者が苦境に立たされるばかりか、企業も国家も衰退する。人事コンサルタントの城繁幸氏が警鐘を鳴らす。
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あとから振り返れば、「2013年度は、“失われた20年”が“失われた40年”へと延びる転換点だった」と位置づけられるかもしれない。
2013年度から2025年度にかけて段階的に、2つの年齢が60歳から65歳へ引き上げられる。ひとつは厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢(男性の場合。女性は18年度から2030年度にかけて)、もうひとつは企業が希望者に対して定年後の雇用を義務づけられる年齢。前者は2000年の年金法の改正、後者は2012年の高年齢者雇用安定法の改正による。
後者は、前者の施策によって60歳の定年後に年金も給与もない高年齢者が増えるのを防ぐための施策だが、大きな副作用がある。それは、ますます若者の雇用が悪化することだ。高年齢者の雇用で増えた人件費を削るため、企業が解雇規制の緩い非正規雇用を解雇するだけでなく、新卒採用を控えるのは目に見えているからだ。65歳まで雇用する義務が生まれた新卒に対しては、そこまでの価値があるかどうかを従来以上に慎重に判断する。
過去に同様の例がある。厚生年金の定額部分の支給開始年齢が、2001年度から2012年度にかけて段階的に60歳から65歳へ引き上げられることが決まったのは、1994年の年金法の改正による。同じ年、60歳定年を義務化するよう高年齢者雇用安定法が改正された(実施は1998年度から)。1993年から始まった就職氷河期の大きな要因はバブル崩壊だが、60歳定年の義務化による人件費の増大を嫌った企業が新卒採用に慎重になったことも、要因のひとつだった。
その後いったん終結した就職氷河期は、サブプライムローンの破綻やリーマン・ショックによって再来し、高年齢者の雇用をより強く保護する今回の施策によってますます厳しいものになるはずだ。
国は年金財政が破綻した責任を取らず、企業に年金の不足分を給与の形で埋めさせる。企業は、そのように回されてきたツケを若者の雇用を犠牲にして払う。「若者イジメ」はますます酷くなったと言わざるを得ない。
企業レベル、国レベルでもマイナスは大きい。古い常識に染まり、古いスキルしか持たない高年齢者の割合が増えることで、企業の体質改善は進まない。それが積み重なって、国全体の産業構造の転換も遅れる。
実は、社会党のオランドが大統領になったフランスでも、今、労働法を改正し、解雇規制を緩和しようとしている。解雇を容易にすれば、企業は気軽に雇用できるので、逆に雇用は増えるからだ。左派政権のフランスでさえそうであるように、先進国では今、一様に解雇規制を緩和する方向に向かっている。その中で唯一日本だけが逆方向に進んでいる。
本来、日本がやるべきことは、社員に一定の賃金を上乗せして支払うことを条件に会社都合で解雇できる「金銭解雇」を認めるよう法改正することだ。また、定年制も撤廃すべきだ。12年7月、政府の国家戦略室フロンティア分科会が「40歳定年制」を盛り込んだ提言を公表したが、これなどは非常に優れた提案である。
そうした思い切った施策によって労働市場を流動化させれば、若者の雇用は一気に増大し、日本経済は復活するだろう。
※SAPIO2013年1月号