政府や企業、NPOなどの戦略アドバイザーとして活躍している坂之上洋子さん。2007年、『Newsweek』誌の「世界が認めた日本人女性100人」にも選ばれた今もっとも注目を集める人物のひとりだ。“よーこさん”の愛称で親しまれ、彼女の新刊『プレゼント』(メディアファクトリー)の帯には、楽天の三木谷浩史会長兼社長、メンタリストのDaiGoなど、幅広いジャンルの人からコメントが寄せられている。また『結婚のずっと前』(二見書房)やツイッターは女性から熱い支持を集めている。しかし彼女には、作家としてではなく別の顔がある。彼女の仕事術に迫った。
――デザイナーとして数々の賞を受賞、ベンチャー企業の副社長を経て独立と、いつもキャリアを潔く手放していますね。そのわけは?
坂之上:十代のときに、大好きだった母が43才という若さでがんで亡くなった、それが、ものすごく私の中で大きかったと思います。自分だって、いつ、病気交通事故で死ぬかもしれない。だから、その時々に自分がやりたいと思うことを素直にやろうと心で思っているだけなんです。
――肩書きや活動をかみ砕いていうと?
坂之上:私の仕事の一部は“アドボカシーストラテジスト”。日本にはあまりいないので知られていないですけど。社会を良くするために、政府に政策を作ってもらうように働きかける。権利擁護、保険医療、街づくり、被災地支援とか、誰もが大切だと思っていることを政策に落としていく仕事。政策って、与党野党両方から賛成して法案を通してもらわないといけないのです。でも内部でやろうと思うと、例えば自民党がやると言えば、民主党が嫌だと言うのが通例でしょう? だから、利害関係のない外部から、各党に説明してまわって党を超えて賛同をもらう、という調整する仕事ってかなり大事なことなのです。同時に世論にも賛同してもらわないといけないし。
――例えば? ひとつ例を教えて下さいませんか?
坂之上:例えば、今先進国の中でも、あまりにも多すぎる日本の犬の殺処分問題を解決する戦略をNPOと一緒に考えています。殺処分には何億円もの予算が使われていますが、例えば過疎地にいるお年寄りが犬を引き取るシルバー事業にすれば犬の命も救えるし、過疎地にお金がまわる仕組みがつくれるかもしれない。過疎地であれば犬を飼育する場所はいくらでもあるわけですしね。もちろん、犬を捨てさせない。里親を見つけるのもパッケージです。でも今のように単に大量に犬を殺していくだけなのはもうそろそろやめたほうがいいんじゃないか、と思うのです。そういうことをNPOや市と考えていくと、国の法律が邪魔していたりするんですよ。そういうのを全体をみながら、変えていく仕事でしょうか。
――確かに、大事ですね。
坂之上:今言った例は、犬は助けてと自分で叫べないから、誰も手をつけていない。でも、誰かが訴えて、こう改良したら良くなるって、証拠や方法を細かく示していけば、そうか。となる可能性だってあるわけです。その労力ってものすごいものが必要なので、誰もやりたがらない仕事なんだと思いますけどね(苦笑)。まぁ、そういう感じで、いろいろと放置されていて、お金にならないけど、大事な社会問題に数多く取り組んでいる感じです。
――坂之上さんがツイッターで呼びかければ、すぐに人が動いて、実現してきたことも多いと。
坂之上:あ、それ福島のインドアパークは、西友に最初断られたのに、ツイッターで私が呼びかけて、偶然それを見たかたが、“私、副社長知ってる”って。紹介してもらって、それがつながって今できあがっている。また、福島の事故以降、お母さんがたのものすごい不安をみて、これは全国レベルでやらないといけないなと思って、保育園で、食材の放射能検査を国の1年間の全額補助を政治家のかたにお願いしました。これを数値で追えばやはり安全か安全じゃないか私たちも冷静に目で追えますよね。パニックや不信感を作らない為にあの時期大事な政策だったと思います。
――交友も、著名人からツイッターで知り合った人まで幅広いですよね。
坂之上:今まで、あまり意識していなかったのですけど…。友人にフリーターから大企業の経営者までいるし、思想も右から左の人までいるからでしょうね(笑い)。でも、私にとって友人になる基準は単純なんです。単に自分にとって面白いかどうか、なので。
――その最初の“面白い”っていうのはどういうことですか?
坂之上:人間的にいい人。でも良い方向にいこうって闘っている人、かな。
――生活の糧を得る仕事としては?
坂之上:企業の戦略をやっています。それも、受けるまでにすごく時間をかけます。そのかわり、受けたら完璧に、絶対に損をさせない仕事をする。人が大事だから、一緒にやる人をすごく見ます。自分のストレスになるようだったら絶対にやらない。
――フリーで動かれていますよね? 心掛けていることは?
坂之上:フリーになるときに、稼ぎたい額も決めました。みんな、上限を決めないから“もっと稼ごう”となりがちでしょう?(笑い)。でもそうなると、どんどん時間がなくなるじゃないですか。私は月に2回くらい休日に外食して、たまに好きなもの買って、家でおいしいものを食べられて、少し貯金できたら幸せかなって。もちろん老後の貯金のことは考えますけど、たくさんのお金が欲しいわけじゃない。だってお金持って死ねないでしょ?
――自分がやりたいことにトライしたくても、できない人のほうが多いと感じます。
坂之上さん:そういう時にすごく大事なのは、友達だと思うんです。周りの友達がみんな「ダメだよね、しょうがないね」みたいな雰囲気だと、世の中がしょうがなく見えてしまうんじゃないかなぁ。「できるよね」って思ってる人を友達にしていれば、みんなが頑張ってるから、自分でも出きるんじゃないか、と思えたりする。人は普段接している近い人達から影響を与えられるものなんですよ。親や兄弟は変えられないでしょ?(笑い)だから友達を選ぶんです。だから、私は仕事仲間まで、ものすごく気をつけて選んでるんです。いつもネガティブな方向に考える人をまわりにおかないこと、それ、すごく大事ですよ~。
――自分に合う人を選ぶ法則とは?
坂之上さん:意識するってことですね。“今日誰とごはんを食べるか”とか、“今日誰と会うか”を一生懸命考える。限りある時間を使う人を一生懸命選ぶ、って、皆、やっていそうで案外やっていない気がします。
【坂之上洋子(さかのうえ・ようこ)】
米国の大学を卒業。米国でデザイナーとして数々の賞を受賞。米国のコンサルティング会社の副社長を経て独立。15年以上の海外生活後、東京へ。現在は、社会貢献系プロジェクトを中心に活動し、政府や大使、企業経営者、NPO代表のアドバイザーとして活躍中。恋愛・結婚に関するツイートをまとめた本『結婚のずっと前』(二見書房)は、現在7万部。新刊『PRESENT プレゼント 世界で1番大切なことのみつけかた』(メディアファクトリー)も発売中。