テレビドラマがトレンドを担っていた時代がある。さて、“ドラマ離れ”が叫ばれる現在はどうか。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が考察する。
* * *
今年はどんな年になるでしょう? できれば、希望の光に包まれた1年になって欲しいものです。
未来を予知することはできませんが、一つだけ見通せそうなことがあります。それは、「断片化」「個別化」「孤立化」の傾向がますます進みそう、ということです。
社会には非正規・臨時雇用が広がり、一人カフェやワンカラ(一人カラオケ)が浸透する時代。朝起きれば、メールにツィート、最新ニュース……。次々に情報が舞い込む。あっちからこっちへと、関心が移り変わっていく。ひとつのことをじっくり長く考えたり、深く味わったりするのがなかなか難しい。限りなく拡散し断片化していく私たちの意識。そんなフラグメント的細切れ感は、今年もいっそう大きくなるはずです。
しかし。
人はバラバラだけでは満たされない。一方で、つながりや重なり、継続、共感を求める生き物。
「誰かと感情を共有して安心を得たい」と思ってしまう生命体なのです。
そんな欲求を満してくれるものが、どこにあるのか? その答の一つが、「テレビドラマ」の中に見つかりはしないでしょうか?
テレビドラマを視ている時は、一つの世界に「属している」という安定感がある。ストーリーやドラマ世界を、他の多くの人々と共有している感覚を持つ。そして、お話の世界が一度で終わりにならず次回へと継続していくことに、ふと安心感を覚えるのは私だけでしょうか?
断片化、孤立化が進むこの時代だからこそ、ドラマが新しい役割を担う。一言でいえば、テレビドラマが薄く広い「共感のプラットホーム」を作り出してはいないでしょうか?
たしかに、「最近のドラマは視聴率が低迷している」という指摘も耳にします。が、視聴率が必ずしも「今の視聴実態」を反映しているのかどうか。すでにあちこちで疑問が提示されている通りです。
視聴スタイルは以前とは大きく変わってきました。テレビに限らず携帯やスマホ、PCでテレビを見る機会ができた。ハードディスクに手軽に番組録画できるようになった。「好きな時間にじっくり見たい」とオンエアの時間以外に録画を見る習慣も急速に広まってきています。DVDを借りてきてドラマを見るスタイルも日常化した。
だから、低視聴率=共有されないコンテンツと早計には言えない。「ドラマ離れ」などと簡単に結論することは、実態を反映していないのかもしれないのです。
かたや、ドラマの新しい楽しみ方・参加の仕方が生み出されています。際立つのが、ネット上の感想書き込み板の活況ぶり。例えば、ヤフーテレビでNHK朝ドラ『純と愛』の感想欄を見ると、たった3か月間で感想が3万件に迫る勢い。見知らぬ人と熱心に、今日のドラマの内容について感想を交わす--そんな積極的な楽しみ方も発見されつつあります。
テレビは表層文化。だから、世の中の変化と併走して、次々に変容していく。断片化・バラバラ化の時代ゆえに、テレビドラマは人々の感情を共有する「共感のプラットホーム」として大きな役割を担っていくのではないでしょうか。今年も注目して参りましょう。