車に乗っていると背後から衝突された。過失割合は0対10で相手が悪い。先方の保険から修理費を出してもらい、治療費などもすべてまかなえた。これで車が元通りになったかといえば、そうではない。下取りする際に、「事故車」と認定され評価額が下がってしまうのだ。
これはいわゆる「格落ち損害」というもので、下取りをして次の車を購入しようと考えていた人にとっては痛手だろう。実は、これも保険会社に請求ができる。ただし、タイミングが限定されているので注意が必要になる。
示談交渉が済む前に交渉を始めなくてはならず、後でさかのぼって請求はできない。10万~20万円程度だというが、シッカリと受け取りたい。保険の請求で、弁護士を介入させるのは最終手段という印象が強いだろう。それで保険金が受け取れたとしても、大半が弁護士費用に消えたら採算が合わないが、そうではない。
最近は、大手損保の自動車保険の特約に弁護士費用特約が付いているケースが多い。だいたい上限300万円までの弁護士費用を負担してくれる。
実は弁護士を介入させて交渉することで、通常よりももっともらうことができる。交通事故訴訟の専門家である弁護士の加茂隆康氏にメリットを聞いた。
「人身事故の支払基準は3つあります。自賠責基準、任意基準、弁護士会基準で、後にいくほど慰謝料などの算定額が高くなります。たとえば交通事故に遭いムチウチになり、後遺障害等級14級が認定されたとします。
自賠責基準では慰謝料32万円に逸失利益(後遺障害のために稼ぎ損なうと推定されるお金)43万円を合わせて75万円。任意もほぼ同額か若干高い程度でしょう。しかし弁護士会基準では、慰謝料だけで110万円に、逸失利益が50万~150万円ぐらい加算されます」
個々の事故状況や病状によって異なるが、弁護士会基準がもっとも高いのは間違いない。ただし、以下のような場合もあるので注意が必要だ。
「保険会社によっては自分たちの都合で、弁護士を指定してきます。保険会社の息がかかった弁護士だと、慰謝料を含む金額を通常よりも低く見積もられる可能性もあるので、自身で弁護士を選ぶほうがいいでしょう」
保険の世界では無知は確実に損をする。しかし、知識さえあれば、もっと保険金を手にすることができるのだ。
※週刊ポスト2013年1月1・11日号