いま、日本の映画は多様性を保ちづらい環境になりつつある。全国のスクリーン数だけをみると、2000年に2524だったのが2011年には3339と増加しているが、そのうちシネマコンプレックスが1123(44.5%)から2774(83.1%)と激増しており、昔からある映画館やミニシアターは減少するばかりだ(一般社団法人日本映画製作者連盟しらべ)。
2010年ごろからミニシアターの閉館も相次いでいる。東京だけでも、2011年には1月に恵比寿ガーデンシネマが休館し、2月にはシネセゾン渋谷が閉館した。2012年も10月に浅草の老舗映画館、12月にはシアターN渋谷と閉館が続いた。そして、銀座テアトルシネマは今年5月に閉館する。
逆風が吹く中、JR新宿駅東南口からすぐの好立地にミニシアター「シネマカリテ」が12月22日、オープンした。97席と79席(うち車イス席が1ずつ)の2つのホールを持つミニシアターは、個性的なプログラムで知られる映画館、新宿武蔵野館を運営する武蔵野興業株式会社が参画している飲食ビルの地下1階にある。シネマカリテも、武蔵野興業による運営だ。
武蔵野興業株式会社執行役員で、番組編成を担当する小畑勝範さんに、逆風の中であえてミニシアターをオープンした狙いを尋ねた。
「こういうご時世ですので、飲食ビルの活性化に違う業種をいれようという話になりました。もともと運営している新宿武蔵野館のこの数年の集客を考えると、映画で新たに集客できる見込みがあると踏んでシネマカリテをオープンしました」
新規オープンの映画館で、2スクリーンどちらもデジタルとフィルム上映の両方に対応しているため、思い切った決断だと業界関係者からも驚かれているという。
「映画業界ではデジタル化がどんどん進んでいて、フィルムでは供給されない作品も増えています。デジタル化に対応する設備投資ができずに閉館してしまう映画館も少なくないんです。
デジタル化の勢いは強いですが、フィルムで供給されるものも確実にあります。ほかの映画館がフィルム上映の設備を排除するならば、映写機をもつことがひとつの武器になると考えています。私自身、35ミリフィルムで素材を供給することにこだわりがあるので、デジタルとフィルム両方が配給可能ならば、うちはフィルムにこだわりたい」
オープニング作品のひとつに、俳優のキアヌ・リーブスが企画制作したドキュメンタリー『サイド・バイ・サイド フィルムからデジタルシネマへ』を選んだのは、映画業界がはらむ問題について、オープン時だからこそアピールできると考えたからだ。ならば今後も、硬派なドキュメンタリーなどを定期的に上映してゆく方針なのかとたずねると、方向性は決めていないし、これからも決めないつもりだという。
「新宿武蔵野館についても、特に色を付けてこなかったんです。何でもこなせる劇場でないと、と思っています」
3スクリーンある新宿武蔵野館は、『アンパンマン』とホラー映画『ムカデ人間』を同時期に上映したり、感動すると評判を呼んでいるフランスの実話をもとにした『最強のふたり』をロングラン上映しながら、レイトショーでB級映画の帝王ロジャー・コーマンの特集を組む個性的なプログラムで知られている。ときには立ち見も出る盛況ぶりだ。
「ここ2年ほど、武蔵野館でいろんなジャンルの映画を供給してきて、そのバラエティ豊かなところがお客さんに評価されていると思っています。どんなジャンルの映画でも上映できるのが私たちのやり方だと思っています。一見、バラバラのように見えて、すぐには他の人に理解されないかもしれませんが、いつかは人とつながってゆくと思っています。よい意味でのごちゃごちゃ感をシネマカリテでも出していくつもりです」
新宿という場所は映画ファンから「映画不毛の地」などと呼ばれた時期もあったが、2007年にバルト9、2008年に新宿ピカデリーとシネマコンプレックスが相次いでオープンした。2015年には歌舞伎町のコマ劇場跡にも新たにシネコンが完成する。
「新宿は、雑多なところではあるけれど、映画にとっていちばんポテンシャルが高い街です。作品編成もそうですが、何をしているんだろうと注目を浴びる存在になって、良い意味で今後も期待を裏切っていきたい。
映画には“銀座向き”“渋谷向き”、アニメだと“池袋向き”と言われるものがあります。でも“新宿向き”の映画、という言われ方はしないんです。つまり、新宿は映画にとって何でもありの街。新宿で当たらない映画は、日本じゅう、どこへいっても当たらないと思っています」
雑多な街、新宿での厳しい勝負をこだわりを捨て、なんでも上映できる “武器”で乗り切ろうというシネマカリテ。今後のプログラムに注目したい。