政界は不気味なほど静かな年明けとなった。
総選挙ではあれほど派手に銅鑼(どら)や鉦(かね)を打ち鳴らし、安全保障の強化を訴えた安倍晋三首相が、政権に就くやタカ派色を一時封印して“安全運転”に徹しているからだ。「危機突破内閣」といいながら、総選挙で公約した2月22日の「竹島の日」の政府式典を取りやめ、尖閣諸島への「公務員常駐」は延期、靖国神社の春季例大祭への参拝さえ見送る構えなのだ。
なにより異例なのは、毎年1月の通常国会召集前に開催してきた自民党大会を3月に延期したことだろう。
党大会には日本経団連会長をはじめ支持団体のトップがズラリと来賓に顔を揃える。3年ぶりに政権復帰した安倍自民党にとってこれ以上ない晴れ舞台であり、7月の参院選に向けた大決起集会になるはずだった。
ところが、安倍首相は昨年12月の役員会で、「衆院選でも絶対得票数は伸びていない。いまだにわが党への国民の目線は厳しい」とあえて延期を決めた。自民党選対幹部が語る。
「政権を取り戻した今年の党大会は空前の参加者が予想されるうえ、経団連はTPP(環太平洋経済連携協定)への参加推進、建設業協会は国土強靱化の公共事業費増額、日本医師会は診療報酬引き上げや医療費への消費税の軽減税率導入など、来賓たちが政策に注文をつけてくる。
ただでさえ総選挙大勝の揺り戻しで参院選は相当厳しい戦いを覚悟しなければならないのに、派手な党大会を開いて国民に昔の自民党に戻ったという印象を与えてしまえば票を減らす。党大会延期は冷静な判断だ」
安倍首相がそれほど安全運転に徹しているのは、一にも二にも参院選勝利のためだ。
安倍連立内閣は衆院では自公で3分の2以上の325議席を占めるが、参院(自公で102議席)は過半数に遠く及ばないねじれ状態のままだ。重要法案や国会同意人事で野党が反対に回れば政権運営は容易ではない。参院で否決された法案を衆院の3分の2で成立させる再可決条項も、参院が採決しない場合、2か月間待たなければ衆院で再可決はできない。よほどのことがなければ使えないのである。
そこで自民党は総選挙に大勝した後も、「総選挙は準決勝。決勝戦は参院選だ」(石破茂・幹事長)と参院選を天王山と位置づけて準備に取り掛かっている。最たるものがかつて「自民党最強の集票マシン」と呼ばれながら民主党支持に回っていた日本医師会、旧全国特定郵便局長会(全特)などの呼び戻し工作だ。
※週刊ポスト2013年1月18日号