安倍晋三首相が唱える経済政策に対して新聞各紙の社説はことごとく批判的な論調を展開している。これに対してジャーナリストの長谷川幸洋氏はこうした批判はあまりに言い古された話ではないかと指摘する。
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安倍晋三政権が誕生した。最優先課題はデフレ脱却だ。外交立て直しも大事だが、経済が回復しなければそれもうまくいかない。かつて米国のクリントン政権は「経済こそが肝心なのだ、愚か者」というスローガンで政権交代を実現したが、安倍も同じである。
ところが、主な新聞は安倍の政策に批判的だ。たとえば朝日新聞は「金融緩和は魔法の杖ではない」「収入が増えない家計が物価高を警戒して節約に走れば、景気はさらに悪くなる。企業に設備投資などの資金需要がない中で大量にお金を流しても、効果は乏しい」と社説で訴えた(2012年12月20日付)。
毎日新聞も「(安倍が唱えた)『物価目標』には疑問と危うさを感じる」「政治家が金融政策に具体的な指示をし、中央銀行を操ろうとすれば、信頼を失いかえって目標達成が遠ざかる」と書いた(同21日付社説)。
これらは、さんざん言い古された話である。新しい歌ならちょっとは「聞いてみるか」という気にもなるのに、まるで「昔の名前で出ています」みたいに歌うので、つまらなすぎて、まともに相手にする気にもなれない。
「魔法の杖ではない」と唱えた元祖は与謝野馨・元財務相である。その与謝野は政党を渡り歩いた末、政界を引退してしまった。なのに、新聞はまだ同じ歌を歌っている。少しは基本を勉強したらどうか。そもそも「これさえやれば万事OK」などという政策はない。「1つの課題に1つの政策」を割り当てるのは経済政策論のイロハである。
まず金融緩和、それに拡張的財政政策を上乗せして景気を下支えしつつ、中長期的な経済全体の生産性を高めるために規制改革をする。これがスタンダードな処方箋である。前提の金融緩和がなければ後の話はうまくいかない。
「魔法の杖」論みたいな話を社説で掲げるのはクリスマスが近かったからと言ったって、いい加減にしたらどうか。そんなおとぎ話は、安倍を含めて緩和論者はだれも唱えていない。(文中敬称略)
※週刊ポスト2013年1月18日号