格差社会に対する不満など、一触即発の中国国内情勢で“火種”となるのはどのような勢力か。現代中国研究家の楊中美氏が解説する。
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経済格差が急拡大する中国で、習近平政権の足元を揺るがすと見られているのは次の三つの勢力である。
一つは共産党非公認の地下労組だ。中国では労働組合(工会)はすべて共産党の指導の下で活動しており、独立した労働組合運動は原則禁止されている。
ところが2000年前後から外資系企業の工場で働く出稼ぎ農民らがストライキを行なって賃上げを要求するようになった。その多くは知識人や民主活動家などからなる地下労組が指導している。こうした動きは外資系企業から中央や地方の国営企業に飛び火しつつある。
現在中国の出稼ぎ農民は約2億3000万人。地下労組が彼らを組織化できれば、1980年代のポーランド民主化運動で、ワレサ氏が率いた独立自主管理労組「連帯」のような大勢力に発展し、政権と全面対峙する存在になるのは必至である。
二つ目は土地を奪われた農民だ。中国では農村の急速な都市化が進み、年間1000万人以上の農民の土地が開発用地に転用されている。それに伴いトラブルが急増し、あちこちで暴動が起きている。広東省烏坎村では地元政府役人らが農民の土地の権利を無断で開発業者に売却。激怒した村民が激しい抗議行動を行ない、役人を辞任に追い込んだ。
こうした農民による反乱が一地方にとどまらず、全国規模で同時多発的に広がれば、習近平体制は危機に直面する。中国には7億人の農民がいる。彼らが一斉蜂起すれば、人民解放軍が鎮圧するのは不可能である。
そして政権にとって最も怖い勢力が三つ目の退役軍人である。トウ小平時代の1980年代に約150万人、1990年代の江沢民時代に約80万人、胡錦濤時代に約30万人の人民解放軍兵士がリストラされた。トウ小平時代以前を含めると、退役軍人は300万人前後と推定される。
退役軍人は旧来の待遇の大幅な見直しを主張。2007年以降の基準に応じた退役手当、住宅、仕事などを要求しているのだ。しかし共産党は彼らを満足させる新たな基準を打ち出すことができず、退役軍人の怒りは爆発寸前の状態にある
※SAPIO2013年1月号