日本の大手企業1285社のトップに君臨する「財界総理」の“蛇行運転”が止まらない。御年75歳の米倉弘昌・経団連会長だ。
まぁるい顔に太鼓腹。そのコミカルな外見も相まって、財界内で「米ジイ」と呼ばれる米倉会長だが、昨年末以来の一連の言動から、いまや「財界の暴走老人」の渾名が定着しつつある。
総選挙の公示直前の2012年11月26日、安倍晋三・自民党総裁が公約に掲げた金融緩和政策を「無鉄砲」「禁じ手」と痛烈批判。政権奪還を前にして破竹の勢いの「次期総理」に噛みついて、「財界総理」の威厳を見せつけたかに見えたが、その後がみっともなかった。
安倍氏に「(米倉会長は)もっと勉強してもらいたい」と子供扱いされた上に、「経団連の副会長の方から、“会長の誤った認識による発言でご迷惑をお掛けしました”という電話をいただいた」と暴露される。12月5日には、米倉氏自ら「財政規律を守るべきだと申し上げるつもりだった」と述べ、「無鉄砲」発言を事実上撤回するハメになった。
ところがその5日後、「米ジイ」は安倍氏に再びパンチを繰り出した。安倍氏がテレビ番組で「デフレ克服なくして、(2014年からの)消費増税はできない」と発言すると、米倉氏は「自民党総裁としてふさわしい発言か」と苦言を呈する。総選挙の公示期間中であることを考えると異例の注文だったが、またしてもその直後に「真意は批判ではない。迷惑をかけて申し訳ない」と安倍氏に電話で謝罪していたことが判明した。
そして総選挙後の12月18日には、経団連の主催する「政経懇談会」が開催され、次期総理の安倍氏も招かれた。ギクシャクを解消する絶好の場と期待されたが、何と米倉氏は風邪による体調不良を理由に欠席してしまう。同月25日の経団連の会合で念願の対面が実現したが、米倉氏の“持ち上げぶり”には白々しさが漂った。
まるで吉本新喜劇のコントのような“一人芝居”に、経団連加盟企業の役員は当惑を隠せない。
「時の政権と協調関係を築いて、財界が望む経済政策に誘導するのが経団連会長の最大の役割。もちろん政治に対して厳しい注文をつけるのは駆け引きの一つだが、満足にコミュニケーションも取れない中での言いたい放題では何も生まれない。ご高齢が理由だとはいわないが、明らかに冷静な判断ができていない」
※週刊ポスト2013年1月18日号