2011年のオープン以来、行列必至・予約困難な飲食店として一世を風靡している「俺のフレンチ」「俺のイタリアン」。銀座や恵比寿、新橋といった好立地に計9店を出店し、フォアグラ、トリュフ、ワタリガニといった高級食材をふんだんに使った料理を1000円台で提供する。究極の価格破壊を実現させた秘密は、客の回転数を上げる“立ち食いスタイル”にある。
そんな俺のシリーズを運営し、飲食業界に革命を起こしているバリュークリエイトが、今度は「俺のやきとり」をオープンさせた。場所は大田区蒲田(JR蒲田駅より徒歩5分)。昨年12月にA5ランクの和牛を食べさせる「俺の焼肉屋」で進出済みの地でもある。
そうはいっても、昔ながらの商店が軒を連ね、焼き鳥専門店も多い激戦区。しかも、これまで同社が扱ってきた高級食材と違い、もともと単価が安く立ち食いも当たり前の焼き鳥業態で敢えて勝負する狙いは何なのか。
1月8日、「俺のやきとり」オープンに際し、慌ただしくスタッフに指示を出すバリュークリエイト社長の坂本孝氏を直撃した。ちなみに、同氏は中古本販売のブックオフコーポレーション創業者で、現在は飲食業界に転身している名うての事業家だ。
――フレンチやイタリアンと違い、コストパフォーマンスの見えにくい焼き鳥業態に打って出たのはなぜか。
坂本:俺のシリーズはフードの原価率がだいたい65%~80%(俺のフレンチは72.8%)。そういう意味では焼き鳥も同じです。大きな声では言えませんが、大手焼き鳥チェーンが500円で出している高級鳥がウチでは1本59円で食べられるのですから。結局、そのくらい原価をかけないと本当の美味しさは分からないんです。
――他チェーンも真似できない価格破壊を焼き鳥でも実現させたということか。
坂本:原価をかけるのは度胸さえあれば誰でもできます。でも、客数を3~4回転させる保証がないから、皆ビビッてやらないだけ。だから、馴染みのある焼き鳥業態にも隙間はあり、“コロンブスの卵”だと思って勝負に出たわけです。これから競争はますます激化していくでしょうね。
――他店が追随してきた場合、「俺のやきとり」が生き残る保証もない。
坂本:「俺のフレンチ」とは違い、確かに焼き鳥店は真似することは簡単です。そこでウチは素晴らしい実績を持つ一流の料理人を招いて“腕前”で差別化を図っています。「俺のやきとり」では、銀座の名店を30年間わたり歩いてきた串焼き名人(甲嶋健造氏)や、新浦安オリエンタルホテルの元料理長(関口智志氏)を擁しています。
――原価が高くて一流のシェフを雇い、客単価の想定は2000円。それで本当にやっていけるのか。
坂本:やってみなければ分かりません。ウチはセントラルキッチンによる集中調理は絶対に行いませんしね。ただ、大きなホテルの調理場の3分の1のスペースで一流のシェフがこれまでの倍以上働くことによって、高い生産性が実現できる。それが絶対的な強みとなっていることは間違いありません。
――俺のシリーズは何店舗まで拡大させる予定なのか。
坂本:マスコミは威勢のいい計画を挙げたほうが喜ぶのでしょうが、ウチは次の1店舗に全力を傾けることで精一杯。100店、200店なんて言うのは簡単ですが、今の時代は無謀なだけでしょ。
――では、新業態の次なる一手、「俺の○○」は考えているか。
坂本:あまり横に拡げることも考えていません。3月には「俺の割烹」をオープンさせますが、例えばこれを寿司専門にしたら、低価格化が進み隙間のない業態ゆえに競争力を保てないでしょう。一時は中華も考えましたが、ここも安売りがどんどん始まって調理人が余っている業態。やはり、隙間がないと事業として成功できないのです。
――出店ペースはゆっくり、既存店でコツコツ稼ぐということか。
坂本:ウチはやっぱり料理人で勝負しているので、これからも一流の料理人たちと相談しながら業態は考えていきます。また、立ち食いにして回転率を上げて客数を稼ぐのが俺のシリーズのいちばんのビジネスモデル。そこはどんな業態にしても貫いていきます。