安倍晋三氏が総選挙公示の直前まで頻繁に書き込みをしていたフェイスブック。しばしば過激な発言があり、それを称賛するユーザーの書き込みが多数あった。ネット上で何が起きているのか。ネットウォッチャーの中川淳一郎氏が解説する。
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安倍氏のフェイスブックで頻繁に展開されているのがマスコミ批判だ。11月16日の『みのもんたの朝ズバッ!』(TBS系)がNHKアナウンサーの痴漢行為を伝える時に間違って安倍氏の映像を流したことについて、2日後のエントリーで、
〈その日はまさに解散の日。ネガティブキャンペーンがいよいよ始まったのでしょうか?〉〈かつてTBSは、私が前回の総裁選に出た際、「731細菌部隊」の報道のなかに私の顔写真を意図的に映り込ませる悪質なサブリミナル効果を使った世論操作を行いましたが「…またか。」との思いです。これから1ヶ月こうしたマスコミ報道との戦いです。私は皆さんと共に戦います〉
と、“宣戦布告”した。ここで注目すべきなのは、マスコミが安倍氏のような“愛国者”に対して「ネガティブキャンペーン」を張り、「世論操作」を行なう、という見方だ。こうした陰謀論的な世界観こそ、ネトウヨの特徴のひとつである。安倍氏がネトウヨに人気がある大きな理由のひとつは、ネトウヨが最大の敵と位置づける「反日マスゴミ」にかつては潰され、今、立ち上がってリベンジしようとしている「悲劇のヒーロー」だからだ。
もっと驚くべきなのは、11月4日のエントリーだ。翌日に『朝ズバッ!』への出演を控えていたのだが、まず、以前出演した時、「安倍氏には期待しない」という街の声を多く取り上げられたことを批判。続いて
〈積極的に番組に意見を伝えることも、草の根の声を活かしていくことに繋がるのではないでしょうか。TBSもそのために視聴者センターを設けています〉
と呼び掛け、その電話番号まで書いた。これでは支持者に対してTBSへの「電凸」(電話による攻撃)を煽っているようなものだ。「電凸」はネトウヨが気に入らない相手に対してよく使う攻撃手段である。仮にも首相候補(当時)たる政治家が「電凸」を煽るというのは、史上初である(TBS広報部は、「内容、件数ともに公表できない」と回答を拒否したが、局の関係者の話では千件単位の抗議電話が殺到したという)。
安倍氏のフェイスブックは異様な盛り上がりを見せているとはいえ、そこに参加している(安倍氏のエントリーを読んでいる)のは多く見ても数十万人であり、国民全体からすればごく一部にすぎない。しかも、かなり偏った政治的傾向を持つ人たちが中心だ。
一国を率いる首相は、支持者が喜ぶことさえやればいいというわけにはいかない。自分に対する反対派も含めた国民全体の意見と利益を視野に入れた政治を行なう責任を負っている。安倍氏が今後もネトウヨ的発言を繰り返してフェイスブックという“ファンサイト”で悦に入ったままなのか、それとも冷静さと大局観を取り戻して真に国益を重視する政治を行なうのか。政権の命運はそこで決まるのかもしれない。
※SAPIO2013年2月号