安倍首相はフェイスブックで活発に発言を行ない、多い時には4万以上の「いいね!」が押され、数千のコメントが書き込まれる。そこではいわゆる「ネトウヨ」が好む「マスコミ批判」も多数だ。領土問題に刺激され、ネトウヨの数は増えているとされている。ブロガーで投資家の山本一郎氏は、安倍氏がネトウヨから人気が高い理由をこう分析する。
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安倍氏のフェイスブックに集まるネットユーザーには、多かれ少なかれ、嫌韓、反中やマスコミ批判を特徴とするネトウヨ的傾向があることはすでに知られている。石原慎太郎氏をはじめ、安倍氏以外にもタカ派と呼ばれる政治家は何人もいるなかで、特に安倍氏がネトウヨ的傾向のあるネットユーザーの間で人気が高い理由はどこにあるのだろうか。
ひとつは、メッセージのわかりやすさである。安倍氏は「美しい日本」「強い日本」「日本を、取り戻す」といったシンプルな言葉を繰り返して訴える。かつて小泉純一郎元首相が「自民党をぶっ壊す」といった“ワンフレーズ・ポリティクス”で国民の支持を獲得したのを自民党幹事長や内閣官房長官として間近で見ていただけに、それに倣おうとしているのかもしれない。ネトウヨは白黒をはっきりつけたがる傾向があるので、安倍氏のメッセージのわかりやすさがしっくりくるのである。
もうひとつの理由は、安倍氏自身にネットユーザーから支持を得たいという強い意識があり、良く言えば彼らに共感する、悪く言えば迎合する姿勢を見せることにある。そのことが最もわかりやすく読み取れるのが、マスコミ批判である。総選挙の公示日前日、〈「ネットなんかに~」と言うマスコミの人々に、草の根の力を認識させようじゃありませんか〉と呼び掛けたことが象徴するように、フェイスブックで繰り返しマスコミを批判し、対抗意識を剝き出しにしてきた。
ネトウヨもマスコミを「既存の権威」や「反日」の象徴と捉えているので、安倍氏のマスコミ批判は賛同されやすい。安倍氏もそのことを理解した上で、頻繁にマスコミ批判を展開しているように思える。
一方、ここ1、2年の間に、ことあるごとにネット上でネトウヨ的な言動をする集団のボリュームは、東日本大震災や竹島、尖閣などの領土問題により2倍近くに増加した。調査会社などの推計によれば、以前は6万数千人程度だったのが、今はおよそ11万人に達したとされている。
これがコア集団だとすると、1か月に15分以上、関心を持ってネトウヨ的な言動を読む人言わば「ネトウヨ予備軍」は95万~110万人いる。20代後半にピークがあり、その前後5歳を加えると全体の半分強を占めるが、70代、80代にも一定の割合で存在する。
また、ある通信社の調査によると、「安全保障」に関心を持つ有権者の割合は、以前は35~40%だったが、東日本大震災や領土問題が起こって以降、やはり2倍近くにまで増えた。「日本はこのままで大丈夫か」という不安が強まり、これを背景にネトウヨ的な気分が蔓延したのである。こうしたネットの地殻変動と安倍氏の言動がシンクロして起こっているのが、フェイスブックの盛り上がりだ。
※SAPIO2013年2月号