日本のインフラの多くは、建設から40~50年経ち、老朽化が進んでいる。大前研一氏は、「政権交代の今こそ、低コストでインフラを甦らせるチャンスだ」と指摘する。
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自民党が政権に返り咲いた。新政権に問われるのは「税」「原発」だけではない。それらも含め「この国のかたちをどう変えていくか」が重要なのだ。
大きなテーマの1つは社会インフラの老朽化である。昨年12月2日、供用開始から35年が経過した中央自動車道・笹子トンネルで天井板崩落事故が起きて9人の犠牲者が出たことは記憶に新しいが、インフラの老朽化はどこの国でも悩みの種になっている。アメリカでも橋が落ちたり、高速道路が壊れて通行できなくなったりしているし、水道管が破裂して道路が水浸しになるのは日常茶飯事だ。
日本の場合、たとえば首都高速道路は1964年の東京オリンピックの頃に完成した都心環状線をはじめ高度成長期に造られたものが多い。総延長約300kmのうち90kmは建設後40年以上、140kmは同30年以上になり、橋脚の破断箇所やコンクリートのひび割れなどの発見件数が年々増えている。首都高速道路会社は1995年の阪神・淡路大震災後に約3000億円をかけて補強工事を進めたが、老朽化で道路の傷みが激しいため、首都直下型地震に備えて、さらに1兆円規模の大規模改修を行なう方針を固めている。
もし想定を超える大地震が起きて首都高が複数箇所で倒壊したら、東京は機能不全に陥ってしまうだろう。なぜなら、首都高には「代案」がないからだ。本来、首都高のように過酷な荷重のかかる高架道路が老朽化してきたら、「万一、倒壊した時はどうするか」を考え、数十年かけて代案になる道路を造ることが重要だ。
自民党は重点政策の1つに「国土強靱化」を掲げている。これは東日本大震災などを踏まえて災害に強い国土づくりを目指し、10年間で総額200兆円をインフラ整備などに集中投資するという計画だ。自民党の「国土強靱化基本法案」によると、避難路・救援物資の輸送を確保する道路などの整備、建築物の耐震性向上、高速道路や新幹線など全国的な高速交通網の構築による「多軸型国土」の形成などを促進するとしている。
しかし、従来の自民党的な発想では、「国土の均衡ある発展」を謳って日本列島にくまなく不要な道路や橋やトンネルを建設してきた過去の例と同様、全国一律に強靱化してしまう。それではほとんど意味がない。限られた予算の中で強靱化するには、人口の多い大都市圏を中心に考えて都市のコンセプトそのものを見直し、道路をはじめ上下水道、電気、ガス、電話などのインフラを根本的に造り替えることが肝要になる。
たとえば前述の首都高の問題は、アメリカ・ボストンの「The Big Dig」が参考になる。これは渋滞が非常に激しかったボストン中心部を南北に高架で貫通する6車線の高速道路の地下化と、ボストン港を挟んで市の東部に位置するローガン空港へのアクセスを改善するための新たな海底トンネルを柱とする複合プロジェクトだった。
首都高と同じ高架高速道路の真下に8~10車線の地下構造の道路を造って置き換えたのである。総延長12.5㎞の地下高速道路の開通後、高架道路は撤去され、跡地の大部分が緑地や公園といったオープンスペースに生まれ変わった。工事は1991年に始まって2006年にほぼ完了し、総事業費は約146 億ドル(当時のレートで約1兆7000億円)だった。
※SAPIO2013年2月号