現在、フェイスブックでは安倍首相がネット右翼から支持を集めているが、なぜネット右翼は安倍晋三氏を支持するのか。首相への返り咲きを熱望していた彼らは一体何を待っているのか。ネット右翼を長期にわたって取材し続けてきたジャーナリストの安田浩一氏がリポートする。
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たまに連絡を取り合っている「ネット右翼」を自称する若者の言葉が、ふいに頭の中でよみがえった。以前彼は、憎悪に満ちた言葉を私に向けて叩きつけている。
「マスコミが首相だった安倍さんを“殺した”んですよ」
彼は「サヨクであるマスゴミ」が、保守派の代表格とされる当時の「安倍首相」を叩きまくり、その影響で辞任に追い込まれたのだと信じて疑わない。確かに「安倍首相」時代、マスコミからは「お友達内閣」だと揶揄され、閣僚不祥事を批判された。そして参院選の惨敗なども重なり、体調不良を訴えて「安倍首相」は舞台から降りた。
私はいかなる政府に対しても、厳しく批判、監視することこそがマスコミの役割だと思っているが、「ネット右翼」を中心とする保守層においては、これを「マスゴミの偏向」と見る者は多い。安倍首相への熱烈なシンパシーは、同時にマスコミとの対決姿勢でもあるのだ。
衆議院選挙戦最終日の12月15日に秋葉原で行われた安倍氏の街頭演説に集まった多くの人々も、同じ気持ちでいるに違いない。マスコミに対する激しい「敵意」からは、今に見てみろ、俺たちがもう一度、「安倍首相」を実現させてやるそんな決意のようなものを感じた。
安倍首相自身、そうした人々の「思い」を十分に感じ取っていたはずだ。彼はフェイスブックを通じて〈マスコミ報道との戦いです。皆さんと共に戦います〉とネットユーザーへ呼びかけている。ネット世論はこれに沸いた。フェイスブックを有効に活用し、自らの考えや政策をネットを使う若い層に届けていることは、ネット右翼とされる者が抱える強烈な「反メディア感情」とシンクロする。
※SAPIO2013年2月号