2012年、中国をはじめとする中華圏には空前のベビーブームが訪れた。その理由は、干支。辰年は「龍年」と呼ばれ、とくに縁起が良いとされる。龍は富と権力を象徴し、生まれた子は出世する、といわれているのだ。しかも昨年は、60年に1度の「水龍年」という大吉祥の年だった。
当地では旧正月(今年は2月10日)をもって新年を迎えるため、まだ辰年が続いている。しかし、近年は太陽暦で干支を考える人も現れ、新年の定義は曖昧になりつつある。中国からは、複数の妊婦たちが「我が子を間違いなく辰年に」と予定日を待たず、昨年のうちに帝王切開で出産したというニュースが伝えられた。
だが、辰年の子を授かりたくても、時すでに遅し――と落胆するのは早計。実は、蛇年の今年も「小龍年」と呼ばれ、龍に準ずるめでたい年だとされている。中華圏のベビーブームはまだまだ続く、というわけだ。
それを商機と捉え、台湾のいくつかのホテルなどは、積極的に「子作りプラン」を打ち出している。子宝に恵まれるとの言い伝えのある名跡へ専用車で送迎するところあれば、精力アップの特別料理を考案したり、ムード作りのために空港まで出迎えたり、ワインや高級チョコレートを振る舞うところもある。
面白いのは宿泊料金。各ホテルとも「3838元」や「17380元」など、中国語の発音で「生みましょう」の語呂合わせになるような価格に設定されている。
提供されるのは快適な滞在ばかりに留まらない。みごと子宝に恵まれたカップルには無料宿泊券やケーキなどのプレゼントを用意するなど、“アフターサービス”に関しても至れり尽くせりの内容を競い合っている。少しでも子作りの励みに、という各社の苦心ぶりが伺われる。
とはいえ、みごと辰年や蛇年に生まれた当人が幸せかというと、そうともいえないようだ。人口バランスが崩れ、それが後々まで影を落とすという指摘もある。
「それを最初に実感することになるのは小学校に上がる6年後です。1988年の辰年にもベビーブームが起きましたが、私たちの学年だけ異常に人数が多く、学校の教室が不足する騒動が起きました」(同年生まれの中国人男性)
それでなくても中国の人口バランスは大きくいびつな形を描いている。1979年から始まった「ひとりっ子政策」の結果として、すでに若年者人口が少なく高齢者が多い少子高齢社会になっているのだ。
中国の人口政策について、『中国人の取扱説明書』(日本文芸社刊)などの著者があるジャーナリストの中田秀太郎氏はこう解説する。
「ひとりっ子同士の結婚なら2人まで子どもを持てるようになるなど、この政策は見直されつつあります。しかし、ここ数年の間に出生が一極集中することになれば、進学難・就職難ばかりか、中国経済全体への影響も避けられないのではないでしょうか」
昨年はあまりの出産ラッシュぶりに、ベビー用品の品薄や家政婦費用の高騰などといった現象が起きたが、どうやら蛇年の今年もその熱気は続くようだ。