「誠実で裏がなく、誰とでも分け隔てなく接する。そんな野球人はON(王貞治氏・長嶋茂雄氏)を除いて松井しか思い浮かばない」
ベテラン記者たちはこういって口を揃える。
引退会見に先駆けて、東京や巨人時代のキャンプ地だった宮崎、故郷の石川で世話になった知人に、松井秀喜氏(38)が報告と御礼の電話を入れていたことは、あまり知られていない。寡黙だが義理堅いその性格は、日米問わず多くの人に愛されていた。
本誌はこれまで、何度も松井氏の取材を行なってきた。左手首のケガを負った直後には、ギプスをはめた普段着の松井氏にセントラルパークで話を聞いた。取材の途中、そんな松井氏を見かけたニューヨーカーから、「ヒデキ、元気か?」「早く戻ってきて。頼むよ」と温かい声をかけられていたのが印象的だった。
30年続いた本誌の新春名物企画のピンチに、松井氏が一肌脱いでくれたこともある。前季の総括と来季の展望を語り合う「ONK座談会」。長嶋氏が病に倒れて出演できなくなった際、松井氏が“代打”での出場を名乗り出てくれたのだ。
松井氏は2004年から4年間、立派に恩師の代役を務めた。会場は東京のふぐ料理店。金田正一氏、王貞治氏という両大御所の前でも、てっさを豪快に平らげていた。その様子を見た金田氏は、
「長嶋の食べ方とそっくりだ(笑い)。師弟はこんなところも似るんだな」
と目を細めていたものだ。
※週刊ポスト2013年1月25日号