安倍晋三政権は政権公約で憲法改正をうたったおり、自民党の憲法改正草案などをもとに今後様々な論点が議論されることになる。 現憲法には、国民主権を維持するための重要な規定がある。「表現の自由」を定めた21条だ。
〈集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。【2】検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない〉
時の政権(国家権力)が国民の権利を侵害しようとした場合、この条文によって、同じ問題意識を持つ国民が結社をつくり、言論に訴えて合法的に政権を変えることが可能になる重要な規定だ。
だが、自民党案はこの2つの条文の間に、次の一項を新設する。
〈前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない〉
ジャーナリストの鳥越俊太郎氏はこの追加条項を「民主主義の根底を崩す暴挙」と指摘する。
「問題なのは、公の秩序を害しているかどうかを誰が判断するか。最終的には裁判所だが、まず取り締まるのは検察・警察という国家権力です。
つまり、私が政府の政策を批判したり、原発再稼働や増税に反対する人々が結社をつくって言論活動を展開するだけでも、政府が恣意的に『公の秩序に反する』と判断して取り締まりの対象にしかねない。権力は公益や公の秩序という言葉を使って国民を統制しようとしたがるが、とくに表現や言論の自由を制限するのは民主主義の根幹を揺るがす危険な思想です」
NHKの番組改変問題で朝日新聞に「圧力をかけた」と報じられ、前回の首相時代に「官邸崩壊」や「お友達内閣」と批判されるなど、メディアとの対立で支持率が急降下した経験を持つ安倍政権や自民党にとって、言論統制は長年の“悲願”のようだ。
安倍首相は7年前の政権当時、憲法改正に必要な「国民投票法」を制定する際に、〈報道機関は、表現の自由を濫用して国民投票の公正を害してはならない〉という趣旨のメディア規制条項を盛り込もうとした経緯がある(野党やメディア、言論人の強硬な反対で同条項は撤回された)。
しかし、憲法の表現の自由は、メディアによる批判に対しても、反論権を保障している。「権力の監視」は報道機関の役割だが、橋下徹・大阪市長は『週刊朝日』の報道にツイッターで反論し、国民に直接訴えることで謝罪させた。
表現の自由によって、いまや権力を監視するメディアも公平な報道かどうかを国民に監視され、チェックされている。それを憲法で規制しようとするのは、「民は知らしむべからず、由らしむべし」という、国民主権をないがしろにする亡国の発想である。
※週刊ポスト2013年1月25日号