今の日本で最優先すべき課題、震災復興のやり直しについて、再び津波の被害を受けるおそれがある低い土地には、いざとなった時に国が補償しない「津波プレイン」に指定する方法を大前研一氏が改めて提案する。
* * *
自民党・安倍晋三政権が発足し、民主党政権のもとで停滞していた政策が“再起動”しようとしている。その中でも最優先すべきは、震災復興の「やり直し」である。
東日本大震災から間もなく2年になろうとしているが、被災地の復興は絶望的なほど進んでいない。瓦礫を撤去して更地にしただけで、復興の槌音がほとんどしないのである。これは関東大震災の時であれ、阪神・淡路大震災の時であれ、新潟県中越地震・中越沖地震の時であれ、従来の日本ではなかったことである。
いま被災地の市町村長たちは、いくらあちこちに陳情を繰り返してもいっこうに先行きが見えてこないため、3つに割れた住民を前に、徒労感に苛まれている。
【1】元の土地に住まわせてほしい
【2】安全な高台に移住したい
【3】全く別の土地(仙台や盛岡など都市部)に移住したい
という3グループに分かれた住民たちの間で、意見がまとまらないのである。
もともと私は、震災1週間後の一昨年3月19日にYouTubeで、いち早く復興計画案を発表している。その中では、高台移住を提唱する一方、再び津波の被害を受けるおそれがある低い土地は「津波プレイン」に指定し、どうしてもそこに戻りたい人々には自己責任で住んでもらう──という方法を提案した。
これは、オーストラリアやアメリカなどがすでに実施している方法で、たとえば歴史を調べると100年に1回、津波や洪水に襲われて大きな被害が出ている土地は、そのことを承知して買う、というものだ。そこは他の土地に比べて安く買えるが、いざとなった時に国が補償することはないのである。この指定をしないと、もし住民が元の土地に再び家を建て始めたら地価が上昇し、移住に莫大なお金がかかって公的資金がいくらあっても足りなくなってしまうのだ。
※週刊ポスト2013年1月25日号