保険業界には「レクシスの法則」なる専門用語がある。保険契約者が支払う保険料と、実際に支払われる保険金の数学的期待値が等しいことを指す。今後、この保険料の“対価”の基準が難しくなるかもしれない。
これまで生命保険には、現金以外の物品やサービスを提供する「現物給付」が認められていなかったが、金融庁の規制緩和方針により早ければ2014年に解禁されるという。
それにより、生保各社が子会社や提携会社を通じて一斉に売り出そうとしているのは、要介護者への援助サービスや介護付き老人ホームの入居権、さらには葬儀の執り行いなど「高齢者商品」の数々だ。
中でも、介護サービスの参入には期待が高まる。民間保険会社が現物給付を手掛けるメリットはどこにあるのか。保険コンサルタントの村田稔氏が解説する。
「民間保険会社が介護保険を取り扱うようになって8年もたつのに、具体的なサービスが法規制に阻まれて何ひとつできなかった。この分野は高齢化でまだまだ成長する余地があるため、あらゆるメニューを用意して契約者の信頼を高めたい狙いがあります。もちろん、他社との差別化が図れるという意味でも、現物給付が認められる意義は大きいのです」
要介護・支援者の認定者は膨れ上がって約540万人。にもかかわらず、公的介護保険の枠内では賄えない実費サービスも多い。生保がその補完役になろうというのだ。
だが、生保業界が思い描く「死亡、医療、年金・老後」に次ぐ第4の収益柱になれるかというと、そう容易くない内情もあるようだ。保険評論家の大地一成氏がいう。
「たとえば契約段階で『こんな立派な介護付き老人ホームに入れますよ』と謳っても、実際に入居するときの経済情勢や物価がどうなっているか分かりません。仮にアベノミクス効果でインフレになれば、保険会社の負担は増すばかり。決して儲かる商売ではありません。
そもそも、生保会社の営業マンや代理店に複雑な介護商品の説明をさせて現場が混乱するくらいなら、人口減に歯止めがかからない国内市場よりも海外を優先したいはず。内勤社員には、語学力を身につけさせたほうが将来につながると考えている大手生保は多い」
前出の村田氏は、現物給付の新商品が根付くまでに時間がかかると見ている。
「高齢者が受けたいサービスとは、身の回りの世話だけでなく、話し相手になるなどプライスレスな心のケアが多い。そうしたサービス提供はいくらパンフレットや約款で明記しても線引きできないものです。プライスレスどころか保険給付金との差が埋まらずにレスプライスになっては、現物給付の意味がありません」
いずれにせよ、生保各社による介護サービスの中身をめぐる戦いの火蓋が切られることになる。村田氏はそのメルクマールとして、早くから医療・介護保険を充実させるNKSJひまわり生命やソニー生命の新商品に注目したいと話す。
また、大地氏は意外な企業の名を挙げた。
「昨年9月にアイリオ生命を子会社化した楽天は、ネット対応型の保険商品の開発を強化しています。現物給付の拡大解釈として、保険に入れば楽天ポイントを倍増したり、旅行券をプレゼントしたりするなど、契約者優待のサービスも表立ってできるようになるかもしれません」
先日、子会社ケンコーコムの行政訴訟で医薬品のネット販売再開を勝ち取った楽天。生保業界でも“台風の目”として旋風を巻き起すのだろうか。