2012年12月12日に北朝鮮が行なった長距離弾道ミサイル発射は、韓国にとって大きな衝撃があった。それはいかほどのものだったのか──産経新聞ソウル駐在特別記者の黒田勝弘氏がレポートする。
* * *
北朝鮮の長距離弾道ミサイル「銀河3号」の成功は、金正日死亡一周忌および金正恩体制スタート1周年の追慕・祝賀花火だった。一方で韓国にとっては一大ショックだった。これが新大統領誕生の韓国に対し良薬となるか劇薬となるか。
朝鮮半島を突風となって襲った年末の“北風”は2013年の東アジア情勢をさらに揺さぶりそうだ。
韓国が衝撃を受けた最大の理由は、韓国の大型ロケット「ナロ号」がすでに2度も打ち上げに失敗し、3度目の正直で期待した11月の打ち上げも延期になったばかりだったからだ。
しかもこの「ナロ号」は韓国独自のロケットではなく、ロシアの支援を得たものだ。つまり韓国はまだ、国産ロケットによる人工衛星打ち上げができない。明らかに北朝鮮に先を越されている。
今回の北の成功を目のあたりにして、韓国のロケット開発は「北に10年遅れている」との分析も出ている。故金正日の「先軍思想」を受け継ぐ金正恩の次の一手は、核ミサイルを目指しての核弾頭小型化だ。だから新たな核実験は近い。
韓国の「銀河3号ショック」は、1957年にソ連が史上初めて打ち上げた人工衛星で受けた米国の「スプートニク・ショック」に匹敵する。
当時の米ソの経済格差は大きかった。ソ連は第2次大戦の疲弊からまだ十分に立ち直っていなかった。しかし共産党独裁で軍事目的のため集中投資した宇宙開発では、米国を出し抜いたのだ。
韓国の経済力はGDPでいえば北朝鮮の40倍にもなる。1950年代の米ソ以上の格差だ。米国はスプートニク・ショックで宇宙開発に目覚め、ソ連を追い越して「月面1番乗り」を果たした。ミサイルでもソ連を圧倒した。今回、自尊心を傷つけられた韓国は今後、北に対抗し“軍拡”に向かうに違いない。
韓国にとってのささやかな慰めは、「銀河3号」のロケット残骸を黄海上でいち早く回収したことだ。韓国は辛うじて面目を保った。
※SAPIO2013年2月号