1泊の相場が3000円台と低価格ながら、狭い、清潔感がない、うるさい、セキュリティーが心配……などのイメージがつきまとってきたカプセルホテル。だが、近ごろは快適性重視の宿泊施設へと変貌を遂げている。
いまだに全ホテルの2~3%程度のシェアしかないカプセルホテルだが、中には高級感を売りに、稼働率を上げ続けている施設もある。まずは全国で人気のカプセルホテルをいくつか紹介しよう。
■安心お宿(東京・新橋)
JR新橋駅から徒歩30秒と好立地のため、ビジネスマンに人気。宿泊のほか湯処やネットカフェ利用がセットになったプラン(エコノミーコース)は3980円。貴重品BOXは静脈認証式、寝具はシモンズ製の特注品、客室内にはビデオオンデマンド完備で300タイトルの映像が楽しめるなど、快適設備が満載。
■ファーストキャビン(大阪、京都、羽田空港)
飛行機のファーストクラスをイメージした空間で、部屋は「ファーストクラス」(1泊4800円~)と「ビジネスクラス」(同4500円~)に分かれる。32インチのテレビが備わったファーストクラスは、ベッド脇にテーブルが置かれスペースも十分。広々したロビーやラウンジ、大浴場、シャワーブースも完備。
■ウェルビー(名古屋、福岡)
朝食バイキング付で1泊会員3600円(一般は4100円)。別料金でサウナやマッサージ(オイル、角質ケア、タイ式など)などのサービスが充実している。「ウェルビー名駅」(名古屋市中村区)には12室の「プレミアムルーム」(1泊会員5500円)があり、32型テレビやパソコン、作業机も設置されている。
■ウェルキャビン(福岡)
九州最大の歓楽街である中州に程近く、部屋が広めの「プレミアム」や2人で利用できる「ツインルーム」もあるため、観光客に人気。「スタンダード」タイプは1泊3800円~。音楽スタジオでも使われている吸音材が壁やベッドに組み込まれ、いびきやテレビ音などの騒音を軽減。上質羽毛布団が安眠を誘う。
こうして見ると、カプセルホテルは寝るためだけの“穴倉”から、ビジネスホテルにも引けを取らない“くつろぎ空間”へと進化していることが分かる。その背景には女性の潜在需要があったと指摘するのは、ホテルライフ評論家の瀧澤信秋氏だ。
「女性の社会進出に伴って、男性に劣らず終電後まで残業したり、職場の仲間と飲み明かしたりする女性が増えました。でも、ビジネスホテルに一人で泊まるのは気が引けるし、マンガ喫茶で仮眠するのも疲れるだけ。そこで気軽で安心に泊まれる施設があったらいいなという女性客をターゲットにしたのが、進化系のカプセルホテルです」
前出の「ファーストキャビン」は、男女でフロアが分かれ、カードキーがないと入れない女性フロアにはオシャレな専用ラウンジが設けられている。また、著名デザイナーらが設計したカプセルホテル「9h(ナインアワーズ)」(京都)は、フロアだけでなく、エレベーターも男女別。エジプト綿のタオルやシリコンフリーのソープ類など、アメニティグッズの開発まで女性を意識する。
ひとりでも多くの女性客を呼び込むために、カプセルホテルが続々と進出しているのが空港や観光地のそばなのも特徴的だ。
「LCC(格安航空)の登場で、いまはお金をかけずにどこへでも移動できる時代。女性の一人旅も珍しくなくなりました。そんな気ままな格安旅行を楽しむ女性たちに、癒し空間を提供しようというのがカプセルホテルの狙い。大浴場やエステなどを充実させれば、宿泊客だけでなく旅行の疲れを癒す時間貸しの需要も増えますしね」(前出・瀧澤氏)
では、これからもカプセルホテルは勢力を伸ばし続けられるのか。
「カプセルホテルの形態は法律上『簡易宿所』で、部屋は9平方メートル以下で、扉は完全に閉められません。完全なプライベート空間を望む女性は個室のホテルに泊まる。特にワンランク上のビジネスホテルは出店を加速して低価格化、女性向けサービスに特化しています。今後、カプセルホテルが生き残るには、いかに女性客の喜ぶサービスに特化できるかにかかっていると思います」(瀧澤氏)
飽くなきホテル戦争――。集客力のカギは、ここでも“おひとりさま女性”の囲い込みということか。