【書評】『学校の音を聞くと懐かしくて死にたくなる』せきしろ/エンターブレイン/1365円
【評者】利重絵理子(ブックファーストミュー阪急桂店)
“学校の音”ってどんな音? 放課後、バスケ部のドリブルの音、吹奏楽部の練習の音、げた箱で靴を履き替えて帰る生徒の笑い声…。3年間帰宅部だった私の、微かな記憶をたぐり寄せてみると、やっぱりなぜか“懐かしくて死にそう”になったから不思議です。
本書は、主人公のほとんどが高校生の短編ライトノベル集です。作者のせきしろさんは文筆家で、お笑いコンビ・ピースの又吉直樹さんや、作家の西加奈子さんと共著を出版しており、ジャンルを超えて活躍しています。
主題は「授業中に犬が入ってくると盛り上がる」ことや「道路の白線部分から出ると敵に襲われるという思い込み」など中高生ならではのくだらない、些細な出来事です。せきしろさんはこんな些細な出来事を拾い集めて、妄想し、ストーリーを膨らませていきます。
「通学途中にぶつかった男子が、実は今日からクラスメイトとなる転校生だった」や「図書館で憧れの先輩と同時に同じ本を取ろうとして手が触れる」も登場します。女子なら一度は夢見たシチュエーションではないでしょうか。まるで少女漫画のようですね。
でも、決して甘酸っぱいだけの話ではありません。図書館で憧れの先輩と同時に取った本が、全く興味のない本だったらどう会話を続けますか(本書ではその本が『職業=田原俊彦』でした…)。本当に仲良しで団結力のあった「仲良しクラス」。卒業後の各々の近況で悲しい結末の話もあり、理想と現実の違いに思わず切なくなりました。
特に印象に残った箇所があります。それは、“人間は大きく2種類に分けられる”ということ。新しい靴を履いて来たとき、「新しい靴だね」と指摘する人/されると嫌な人。あるいはうれしいことがあったとき、自然とハイタッチができる人/できない人。
私は後者だったのですが、この差は一体何なのでしょうか。素直に認めればいいのに、なぜか認められない。恥ずかしいし、カッコ悪い…。自意識過剰だったあのころが思い出されていきます。
この本を高校生が読んだらどう思うのでしょう。きっと本当のおもしろさはわからないはず。この本にはあのころの些細でくだらない、けれど大切な断片がたくさん詰まっています。それはもう、“懐かしくて死にそう”になるくらいです。いつの間にか大人になってしまったあなたにこそ、読んでほしい一冊です。
※女性セブン2013年1月31日号