今年の初競りで1億5540万円の値をつけたクロマグロは青森・大間産。実は2001年以降、初競りの最高値は、2011年の戸井(北海道)を除いて全て大間産だ。2000年にはNHK朝の連続テレビ小説『私の青空』(主演・田畑智子)の舞台になったほか、2007年には大間のマグロ漁師を主役にしたドラマ『マグロ』(テレビ朝日系、主演・渡哲也)が作られるなど、大間の名はこの10年余りの間に、瞬く間にブランド化した。今や高級マグロの代名詞だ。
今回の初競りのマグロを釣り上げたのは、竹内大輔さん(36才)。代々、大間で漁師をしている一家に生まれた。2001年に築地市場の初競りで、当時史上最高額だった2020万円のマグロを釣り上げたのは大輔さんの父・薫さん(62才)だった。つまり親子2代で記録を達成したことになる。
薫さんは3年ほど前に大輔さんに船を譲り、今は妻の紀子さん(55才)と食堂を経営している。自分の記録をはるかに超える1億5540万円という高値に、喜びとともに驚きを隠せない。
「破格というか、想像もつかない金額ですよ。あれはできすぎ。相当運がいい」(薫さん)
薫さんが「運がいい」というのには、理由がある。大輔さんが件のマグロを釣ったのは年末の12月29日の朝。年内に競りに出すこともできたが、大輔さんは水揚げした時点で、マグロを初競りにかけることを決めていたという。もちろん初競りでの最高値を狙ってのことだ。
しかし、もし漁が解禁される1月4日にそれ以上の大型のマグロが水揚げされ、5日の初競りに出されたら、最高値はそのマグロに奪われてしまう。
「息子はその1週間、プレッシャーで気が気じゃなかったんじゃないの? 4日に誰かがそれ以上のマグロを揚げれば、アウトだから」(薫さん)
過去の例を見ても、222kgのマグロは決して大きなほうではない。しかし、4日の漁でマグロが1本も揚がらず、大間から初競りにかけられたのは大輔さんのマグロを含めて4本だけだった。
世界各国からこの日、市場に並んだマグロの数は約2400。うち200kgを超えたのは大輔さんのマグロだけだった。賭けは的中し、1kg当たり約70万円もの値段がつけられることになった。
もちろんこれほどの高値がつくのは初競りの1本だけ。通常のマグロの取引相場は大きさにもよるが、1kg当たり4000~5000円(1本約100万円)、初競りは御祝儀相場で2万円ほどつくことも珍しくないが、それでも「最高値」だけが突出している。
「しかも、皆が初競りを狙って、これぞという大きいマグロを出してきますからね。ところが初競りでは、1番手だけに高値がつくから、相対的に2番手以下は他の競りの時より安値になることもあるわけです。
昨年、一昨年の初競りでは大きいマグロが数多く出たので、年末に出しておけば2万円とか高値がついたものが、初競りに出したせいで1万円を切ってしまったのが何本もあったんです。今回は本数が少なかったから、2番目で1kg4万3000円、3番、4番でも2万円を超えたけどね。まあ、1等賞は息子の1本だけです」(薫さん)
最高値のマグロを釣るのは、まさに宝くじを当てるようなものなのだ。
※女性セブン2013年1月31日号