体罰によって高校2年生の男子生徒を自殺へと追い込み、暴行容疑での逮捕も検討されている大阪・桜宮高校バスケ部の顧問A氏。1日に30~40発も平手打ちするなど、指導と呼ぶには尋常ならざる体罰の実態が明らかになるにつれ、全国に衝撃が走っている。しかし、一部では「先生は悪くない」と顧問の熱血指導ぶりを評価する声も。
A氏は生徒の自殺後も、市教委の聞き取り調査に、「体罰で気合を入れた。部を強くするために必要だと思う」などと語っている。
スポーツジャーナリスト・松瀬学氏はこう言う。
「ぼくは、教師に指導力がないから暴力に走るのだと思う。体罰は痛みとともに生徒の心に傷を残す。今の時代には暴力は許されない。ただ、ケースバイケース、程度の問題という面もある。生徒が人として間違ったことをしているときには、指導者も辞める覚悟を決めて叩くことがあるかもしれない。いずれにしろ、今回のことは論外。生徒の心の悩みも知らず、感情に任せて叩いただけの暴力でしょう」
「学校教育法」では、教師は生徒に対して「体罰を加えることはできない」とはっきり定めている。違反すれば懲戒・訓告処分の対象。2011年度は404人の教師が停職や減給になった。
しかし、この数字はあくまで学校が認めたケースに過ぎず、実態を表していないという指摘がある。
「全国学校事故・事件を語る会」の代表世話人を務める内海千春さん(53才)は18年前、当時小学6年生だった長男を自殺で亡くした。学校で担任に頭と頬を叩かれた後のことだった。
「何回同じことを繰り返すんでしょうね。子供のことを思い出して、とてもつらくなりました。あのときは、私はもう一生笑うことができない、と覚悟したほどです」
そう語る内海さんの次の指摘に耳を傾けたい。
「今回も教師の体罰問題が隠ぺいされていたことが明らかになりました。体罰を問題と考えるのではなく、体罰で騒がれることが問題だと捉えている学校や行政の姿勢が変わらない限り、こういうケースはなくならないと思います。ぜひ全容解明を期待したいです」
会ではこれまで49件の自殺の相談を受けているが、その内訳はいじめが原因と考えられる自殺が19件で、教師との関係が原因と考えられる自殺が20件。「いじめと同数程度、教師が原因の自殺が起こっている」(内海さん)という。
「暴力をふるわれる側の心の痛みは、相手が教師であるか、生徒であるか、は関係ありません。それによって受ける傷は同じくらい大きく、いじめも体罰も暴力という犯罪を行っている点で一緒なんです」(内海さん)
教師と生徒という力関係を背景に、相手を従わせ、命令に背けば制裁を加える。生徒が反撃しないことをいいことに、暴力をエスカレートさせていく。A氏が生徒に加えた体罰の構図は、いじめっ子がいじめられっ子を従わせるのとまさしく同じ構図だ。
では、わが子が教師による“行きすぎた熱血指導”に苦しめられているとき、親はどんな対応をとるべきか。
「まず、体罰を加えた先生と学校の管理職に親から事実を伝え、辞めてもらうよう申し入れてください。それでも駄目なら、教育委員会に、体罰の証拠を提示した上で訴える。ただ、保護者のみで教育委員会に申し入れると、事実を隠ぺいされてしまうケースがほとんど。弁護士や支援団体などの第三者に同行してもらって交渉することも考えましょう。大切なのはひとつひとつ手順を踏んで進めることです」(内海さん)
※女性セブン2013年1月31日号