都内の情報機器メーカーに勤務するA氏(45)は、オフィス内で隣の女性社員から、こんなことを言われて驚いたという。
「最近のAさん、フルーツ系のいい匂いがしますよね。今さら女子にモテようとしているんですか? それとも加齢臭対策だったりして?」
A氏はこれまでまったく気にも留めていなかったが、改めて自分の体をクンクン嗅ぎ回してみると、匂いの元はワイシャツの上に着ていたセーターあたりから漂ってくる。その日の帰宅後、妻に聞いてみると、
「今ごろ気付いたの? 香りの強いアロマ柔軟剤に替えたのよ。部屋が乾燥するから洗濯物は晴れていても室内干し。だから、一緒に部屋中もいい香りになるかなと思って……」
テレビCMの1コマに出てきそうな光景だが、昨今の柔軟剤は「洗濯物を柔らかくし、着心地や肌触りを良くする」という本来の機能よりもむしろ、香りを重視して選ばれる傾向がある。某マーケティング会社の調査でも、柔軟剤による衣類の香り付け機能を求める人は約6割もいて、3人に1は複数の種類を使い分けているとのアンケート結果が出ている。
香り系柔軟剤ブームは、2009年にヒットした米P&G社製「ダウニー」のヒットが火付け役となり、売り上げは拡大の一途をたどる。市場調査会社の富士経済によると、柔軟仕上剤の市場規模は約640億円(2011年)。ダウニーのヒット以降は、国内メーカーの新商品投入が相次ぎ、その種類はここ数年で3~4倍に膨れ上がったもようだ。
「ちょうど汗やタバコなどの匂い移りを防ぐ合成洗剤が注目を集めるとともに、香りに対する関心も高まっていた時期。そこで強めの香りと大容量で経済的なダウニーに需要が集中したのです。でも、ダウニーの香りは好き嫌いの個人差も激しいため、2010年以降は国内メーカーから続々と出る新しい香りに目移りしている消費者は多い」(都内ドラッグストア店員)
国内メーカーの柔軟剤は、以下の3強でシェアを分けあっている。
■花王
「フレア フレグランス」シリーズが人気。水分や汗を感知すると香りが広がる独自開発の「香りセンサー」を配合
■ライオン
「香りとデオドラントのソフラン」を主力商品に、アロマリッチやフローラルアロマなど香りアイテムが好調
■P&Gジャパン
「レノアハピネス」が売れ筋。洗濯すると独自の香りカプセルが繊維に入り込み、生地がこすれるたびに弾けて香りが変化する
各社とも、いかに香りを持続させるかの開発競争に余念がない。「規定の分量しか入れないと、すぐに香りが飛んでしまうから倍は入れている」(30代主婦)、「通常のすすぎが終わった後に全自動を一旦止め、柔軟剤を入れてから仕上げ洗いをしている」(20代女性)など、飽くなき消費者の「香り追求」を解消すべく、メーカーが取り組む課題もまだ多い。
最近では、P&Gジャパンの「レノアハピネスアロマジュエル」や、ドイツ・ヘンケル社が扱う洗濯用フレグランス「ヴァーネルクリスタル」など、柔軟剤プラスアルファで香りだけをつける粒状商品も付加価値商品として、売れに売れている。「洗剤+柔軟剤+香り剤の香りがケンカしないか、いろいろ試している」(40代主婦)という“匂いフェチ”が急増しているのだ。
そして、メーカーが狙う次なるターゲットは男性。冒頭の会社員のように、思わぬ人から注目されたり、時にはモテ要素になったりするため、香りに敏感な男性が年齢を問わずに増え続けているという。
「子供の学校の父兄会で、担任の独身男性から柔軟剤の花の香りがしてきたので、『彼女と一緒に住んでいるのでは?』と話題になった」(30代主婦)
「すれ違いざまに日焼けオイルの匂い(ココナッツ)がしたので振り返ったら、夏が似合わなそうなオジサンでした」(20代女性)
前出の富士経済によれば、柔軟剤市場がさらなる拡大をするためには、「カジュアル、ビジネス、フォーマルなど使用シーンに応じた製品展開や季節に応じた香り展開など、保有本数を高める施策が重要」と分析している。
ドラッグストアやホームセンターで柔軟剤を買い漁る“かおり男子”の出現も近い!?