中国の機嫌を損ねたら13億人の市場を失って日本は大打撃を受ける、だから何事も穏便に済ませよう──政治家やビジネスマンにはそう考える者が少なくない。だが、実は日本が受ける経済的な打撃は軽微であり、本当に困るのは中国のほうだと経済評論家の三橋貴明氏は指摘する。
* * *
中国を敵に回すと、日本が必要とする資源を入手できなくなるという指摘もある。これもまた事実に基づかない印象論だ。
2010年に尖閣諸島漁船衝突事件が発生した際には、中国側がレアアースの輸出を制限したため一時的に日本は大混乱に陥った。だが、別にレアアースは中国だけが産出しているわけではない。
他国の鉱山は中国がダンピングしていたため採算が合わずに閉山していただけだ。現在ではアメリカ、カナダ、ベトナムなど中国以外の国からもレアアースを調達するようになり、またレアアースを必要としない技術開発も進んでいる。そのため、中国で在庫が積み上がり、内モンゴル自治区や江西省などのレアアース鉱山は生産停止に追い込まれたほどである。
その国にしかないもの、その国にしかできないものがあるほうが強い。
日本はレアガス(希ガス)の製造をほぼ独占している。レアガスは半導体の製造には欠かせない。日本がレアガスの輸出を止めたら、中国は半導体を製造できなくなる。他にも製品の核となる部品などの資本財や工作機械を支配している日本は非常に立場が強いと言っていい。
中国はそうした事情を十分に把握しており、軍隊で正面からまともにやりあっても自分たちのほうが被害が大きくなることが分かっている。
※SAPIO2013年2月号