適量が大事だとわかっていても、「酒は三献に限る」をどうしても守れず、飲み過ぎて後悔してしまうもの。酒を酌み交わして生まれる縁もあれば、壊れる絆もある。各界著名人が迷惑をかけた“あの人”を思い出しながら語った「泥酔録」には、酒を愛し、人を愛する「人生の滋味」が溢れている。
ここでは、落語家の月亭可朝さんが、30数年前に処女だったという、ある宝塚女優に謝りたいと語る出来事だ。
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あれは30数年前、ワテが40歳かそこらの頃でんなあ。宝塚歌劇団所属の、べっぴんもべっぴん、処女は間違いなしちゅうオナゴと知りおうたんです。
いつもは手が触れただけでベッドに連れ込むちゅうワテが、この子にだけは紳士を貫き通しました。彼女には同居している姉がおって、1年かけてこっちの信用を獲得したんです。相手がヅカガールやからと、密かにダンスのレッスンまで受けてましたがな。
クリスマス・イブの夜、いよいよ暗黙の了解ちゅうんですか、2人っきりで大人の時間を過ごす機運が盛り上がった。お目付け役の姉からも「お泊りはアカンけど、夜は遅うなってもかまへん」というお墨つきまでもろたんです。
高級レストランで彼女と食事をした後、神戸の有名なダンスホール「北野クラブ」でお酒を愉しみました。
ところがこの日、僕は朝から後援者とゴルフでしてね。これがまた、ラウンド中から酒を飲むという、ウワバミみたいなオッサンでんねん。僕も夜のことがあるから、つい浮かれて調子に乗ってご相伴してしもた。
おかげで、ホテルにしけこんだものの、愚息がさっぱりいうこと聞きよらへん。挙句の果てには、昼間の疲れで爆睡ですわ。
結局、朝まで一緒やったのにセックスはなし。1年の苦労が水の泡のうえ、彼女を傷つけてしもた。マンが悪いというのは、このことでんな。その後、彼女のクルマの代金の半分を出したりして挽回を図ったけど、結局はナンもせんまま別れてしまいました。
※週刊ポスト2013年2月1日号