「歪んで伝えられている日本の歴史を少しでも是正できるような仕事ができたら、というのが小説を書く大きなモチベーションです」
“史上最年長”と“戦後最年少”が話題になった第148回芥川賞・直木賞の合同会見で、最後に登壇した安部龍太郎氏(57歳)は、ベテラン作家らしく貫禄十分に語った。
しかし、前回直木賞候補になったのは第111回というから実に19年前。なので「すでにこの賞の対象からは外れていると思っていた」というが、この間、『信長燃ゆ』『生きて候』『薩摩燃ゆ』『蒼き信長』などすでに数多くの話題作・問題作を世に送り出し、2004年には『天馬、翔ける』第11回中山義秀文学賞を受賞しており、多くの歴史小説ファンを獲得している。この日の会見でもまず読者への感謝を口にした。
受賞作『等伯』(日本経済新聞出版社)は、安土桃山時代の絵師・長谷川等伯が、戦乱や家族との死別、狩野永徳の妨害などを乗り越えて多くの名画を生み出していく生涯を追った上下巻の大作。
選考委員の北方謙三氏は「完成した力量による伝記小説で読みどころが多い」と評した。等伯に関して残された史料は少ないが、「ありがたいことに故郷・七尾時代の仏画や、京都に出てからの絵が、実はたくさん残されています。その絵と向き合うことで、本人と対話できる」。
1955年福岡県生まれ。久留米高専卒業後上京、図書館に勤務しながら小説を書いていたが29歳の時に退職。当時は8畳一間のアパートに妻子3人と暮らしていたため、執筆は洋式トイレで行なっていたという。
等伯が33歳で上洛しながら絵師として認められるようになったのが51歳をすぎてから。「私が作家としてデビューしたのも33歳。そんなところも重なる部分がある」と感慨深げだった。
撮影■林紘輝
※週刊ポスト2013年2月1日号