日本人にとって憲法改正は何か「特別なこと」のように感じられる。だが、諸外国に目を転じれば、憲法改正は当たり前のように繰り返されてきたのが実態だ。
1945年以降、アメリカは6回、カナダは18回、フランスは27回、日本と同じ敗戦国であるドイツでは58回も憲法を改正しているのである。
これらの国では、どんな手続きで憲法改正が行なわれているのか。日本大学法学部の甲斐素直・教授(憲法学)が解説する。
「国の統治制度には単一国家と連邦国家があり、憲法改正の方法も異なります。アメリカやドイツのような連邦国家の場合、州ごとに独自の憲法があるので、連邦憲法は一種の条約のようなもの。憲法改正は国会が『発議』し、州の『承認』を得ることになる。一方、日本やフランスのような単一国家では、国会が『発議』し、国民が『承認』するという手続きになる」
この点を踏まえたうえで、各国の改正規定を見ていこう。
まずアメリカの場合、上下両院の3分の2以上の賛成で発議され、全州の4分の3以上の州議会の賛成があれば承認される。
戦後の米国の憲法改正は、1951年の「大統領の3選禁止」(第22修正)、1971年の「選挙権年齢の18歳引き下げ」(第26修正)などが行なわれてきた。直近の改正は、1992年の「上下院議員の歳費を改定する法律は、次の選挙が行なわれた後に施行する(つまり、歳費は当事者の議員が決めることはできない)」という第27修正だ。
このように米国の改正は、「条文の書き換え」ではなく、「修正条文を付け加えていく方式」のため、改正しやすいといえるかもしれない。
ドイツでは連邦議会の3分の2以上、連邦参議院でも3分の2以上の賛成が必要だ。ドイツは連邦議会と連邦参議院の二院制とされているが、連邦参議院は選挙で選ばれた議員で構成されるのではなく、各州政府の首相や閣僚など、連邦を構成する州の代表者で構成される。
「連邦国家では『州』が『国民』に相当すると考えると比較しやすい。アメリカもドイツも国会は日本と同じ3分の2以上の賛成ですが、日本の国民投票は2分の1以上ですから、アメリカの4分の3、ドイツの3分の2というのは、日本以上に厳しい規定だといえる」(前出・甲斐教授)
日本と同じ単一国家のフランスでは「死刑の禁止」を定めた66条改正などが行なわれてきた。同国は大統領制なので、大統領の権限による改正手続き(11条)もあるが、
「基本は、首相が大統領に憲法改正を提案して大統領が発議する、もしくは首相が国会議員に提案し、国会議員が発議する89条による改正です。両院(国民議会と元老院)で過半数で可決された上で国民投票を行ない、国民投票では有効投票数の5分の3以上で承認となります。日本と比較すると、国会の議決のハードルは低いですが、国民投票は逆に日本より厳しくなっています」(同前)
安倍首相は昨年12月17日の会見で、憲法改正について「3分の1超の国会議員が反対すれば議論すらできない。あまりにもハードルが高すぎる」と語ったが、諸外国と比較すれば、決してそうとはいえないのである。
※週刊ポスト2013年2月1日号