テレビの楽しみ方は人それぞれだが、にしても、気になって仕方がない、何とかならないのかあれは、と思った経験は誰にでもあるのではないか。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。
民放のみならずNHKまでを埋め尽くすバラエティ番組。芸人とタレントが内輪話で盛り上がる様子はもうあきあきと、チャンネルを回し続ける漂流者が、特に中高年世代に増えているもようです。
地デジ化によってBSも含めてチャンネルの選択肢はぐんと増えた。グルグル回しているうちに、ふと手を止めるのは、やはり、きれいな田舎の風景。おいしそうな地方料理、温かそうな温泉、素朴な田舎の人々。歴史街道を歩いたり、日本の原風景を訪ねたり。外国なら、マルシェに特産ワイン、田舎の農場風景に癒されたり、地中海の青さに見とれたり。
つい、チャンネルをあわせてしまう「旅番組」。潜在的人気高まってきていますが、ただ旅風景を紹介すればいい、というものではない。
制作側の方々は、旅番組は付け足しとか穴埋めとか経費節減対策とか思ってはいませんか? 構成やキャスティングが旅を生かしも殺しもすることを、ちょっと甘く見てはいませんか?
例えば、旅の「紹介人」の人選について。
旅番組の「主役」は、あくまで美しい山や海、掛け流しの温泉、郷土料理。しかし時に、元アイドルのひときわ濃い化粧の中年女性が、お風呂の中で黄色い裏声で自己主張。まだイケている、まだ男性に人気がある、という自意識なのでしょうが、見せられるこちらはドン引き。癒されていた気分が一気に吹っ飛んで、旅の世界が壊れてしまうことがしばしば。
もちろん、「元アイドル」と言っても、旅における自分の立ち位置、ふるまい方の「匙加減」が、よくわかっている人といない人、くっきりと二つに分かれる。そのあたりを観察するのも、旅番組のもう一つの楽しみ方なのかもしれません。
旅の風情に上手にフィットしている元アイドルの代表といえば……まずは、麻丘めぐみさん。「私の彼は左きき」では日本中を一色に塗りつぶす勢いの人気だった。でも、中年になった今、そんな自意識はみじんも感じさせず、過去は過去と落ち着いた所作。あくまで旅が主役だと心得ていて、一歩引きつつ土地の個性を紹介する。それでいて、楽しんでいることがちゃんと伝わってきます。
その他にも、伊藤まい子(元芸名・麻衣子)さんや伊藤かずえさん、秋本奈緒美さんなど、旅の雰囲気を壊さない秀逸な旅のおとも、たちがいます。
テレビ局は、番組に積極的にチャンネルをあわせてもらうことこそが最大の価値でしょう。でも、「邪魔にならない」ということも、今の時代には貴重な価値です。そのことを甘く見ていると、しっぺ返しをくらうかもしれません。なにせ、中高年世代の旅好きから、どんな新ビジネスが生まれてくるか、わからないのですから。