アフガニスタン駐留のデンマーク兵を追った戦争ドキュメンタリー映画「アルマジロ」が話題を呼んでいる。兵士のヘルメットに小型カメラを装着し、そこに映し出されるのは「本物の殺し合い」だ。フリーライター神田憲行氏が見所を紹介する。
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飛び交う弾丸の音。轟く爆発音、ボロぞうきんのような骸をさらすタリバン兵……戦争映画でお馴染みのシーンを目の当たりにするたびに、「いやいやこれはフィクションじゃない、本物だから」と気持ちをリセットせずにおられなかった。
現在、「渋谷アップリンク」などで上映されている「アルマジロ」(デンマーク、ヤヌス・メッツ監督)は必見の映画である。なぜならこの映画は現在の戦争はどのように行われているのか伝えた、貴重なドキュメンタリーだからだ。監督、カメラマンが実際に戦地で兵士とともに寝起きしてカメラを回しただけでなく、兵士のヘルメットにも小型カメラを装着した。パトロール中に突然銃撃されて兵士が地面を転げ回ると、カメラは突然空を、森を、砂漠を映し出す。観客は「兵士目線」での「殺し合い」を体験する。
「アルマジロ」とはアフガニスタンの前線に置かれた基地の通称で、デンマーク軍はISAF(国際治安支援部隊)としてイギリス軍とともに対タリバン対策のためここに駐留している。映画は2008年から09年にかけて、若い兵士たちの赴任前からアフガン、帰国まで密着した。
戦闘シーンだけでなく、「これが現代の戦争なのか」と感じさせるようなシーンもある。アフガニスタンの基地から衛星電話で母国の母親と話をしたり、基地内をバイクで走りまわる若い兵士たち。小隊長の訓話を寝そべって聞き、奇襲作戦の従事者も「志願制」で、主人公のひとりが「僕でも良ければ」とおずおずと申し出る。そんな「緩さ」が、逆に、ドキュメンタリー性を際だたせていると思う。
映画はもちろん、私が感心したのはパンフレットだ。アフガンにデンマーク兵が駐留していることすら知らない私のような鑑賞者のためにデンマークの徴兵制(良心的兵役義務もあるそうだ)など、映画のバックボーンとなる知識がコンパクトにまとめられて、ジャーナリスト、映画監督ら四本のコラムも読み応えがあった(自衛隊体育学校広報室勤務の映画評論家って、知ってました?)。
監督インタビューも素晴らしい。この作品を見て疑問に思うところを余すことなく代わりに聞いてくれている。たとえば密着した兵士たちが戦争犯罪に問われかねないシーンも入れたことについて、ヤヌス監督は、
「映画監督としてもっとも辛い体験だった。(中略)映画に対して私が背負っていた責任は、出演してくれた兵士たちを守りたいという欲望よりも大きかった」
と真情を吐露している。
この映画が去年の今ごろなら、話題にしなかったもしれない。映画を見てどうしても考えざるを得ないのは、自衛隊のことだった。憲法を改正して国防軍とし、PKOだけでなく軍事的な国際貢献まで視野に入れる政権が誕生したいま、この映画が「他人事」には思えない。監督インタビューでも最後にこんな質問をしている。
「日本では2012年12月16日に総選挙が行われ、『憲法改正により自衛隊を国防軍として位置づける』と公約に掲げている政党が勝ちました。日本の観客になにかメッセージを」
パンフを制作した映画宣伝担当者の露無栄さんによると、
「インタビューの質問はみんなで考え、来日予定のないヤヌス監督にメールで行いました。最後の質問は、観た人にこれからを考えるきっかけになってほしいという想いから加えたものです」
これに対してヤヌス監督は明確に回答している。しかしそれをここに書くのは野暮だろう。映画を観て、パンフを買って自分で考えて欲しい。
「アルマジロ」は渋谷アップリンク、新宿K’s cinema、銀座シネパトスほか全国順次公開中。詳しくは公式HPで確認を。